538.シート作りのステラ
「すみません、紙はありますかっ!?」
「あるよー」
ナナが棚から用紙とペンを持ってくる。
「こう、こう……少しふっくらしたぴよちゃんの体をイメージして……」
ステラはさささっと図面に絵を描き始める。
「上手いね、ちゃんと精度出てる」
「ユニフォームで学びましたからね……!」
元々、身体能力は極限に高いステラである。
学ぶ機会があれば上達は早い。コカトリスが関わるなら、なおさらである。
「ふっくらしたコカトリスが並んでいるんだぞ」
「ロウリュで並んで座ってた仲間を思い出すぴよねー」
「そうです、ぴよちゃんは並んで座ることはあんまりないのですが……」
ステラのデザインはコカトリスの膝に座るようなものだった。
ついでに羽に見えなくもないベルトもきっちりつけておく。
「ふふふ、ぴよちゃんに抱きしめられるみたいに……あとは衝撃吸収も、この中身にっと……」
「ぴよ。かあさまが自分の世界に入ったぴよ」
「わっふ。たまによくみる光景なんだぞ」
「そうぴよねー」
そしてステラはペンを置く。
「どうでしょうか! このぴよちゃんシートは!」
並んだコカトリスに、VIP席には横幅大きめのコカトリス。なるべく路面に対して低く、平行に……!
備え付けのテーブルはエルト作の高級品である(予定。まだエルトの許可は取っていない)
「うーん……コカトリス」
ナナが微笑む。
「まぁ、いいんじゃない? この村らしくて。でもこの座席は結構大変だよ」
ステラは力強く頷く。
「ぴよちゃんのためなら……!」
◇
打ち合わせをして戻ってきたステラはやる気に満ち満ちていた。
「収穫はあったか?」
「はい! 素晴らしいアイデアが生まれてきました!」
それから数日、ステラは必死に座席シート作りに励んだ。
俺もステラの書類仕事は他の人に割り振る。
まずはステラを中心に魔導トロッコの装飾部分を進めてもらった。
「ふんふーん」
家の一角はステラの工房と化している。
とりあえず、試作品は自分の手で作りたいとのことだ。
「量産はさすがに他の人に任せますが、まずは納得できるものを作らないとですね……!」
「そうだな、どういうものか実物が欲しいからな」
上質の布、耐久力のある糸、座り心地と魔導トロッコの実用性との融合……。
ステラの手元にはぴよっとしたクッションが置いてある。
完全にコカトリスのふかふかシートだった。
見方によっては巨大なぬいぐるみにも思える。
「〜〜♪」
ステラは上機嫌にシートを裁縫していた。
マルデコットンをつめつめ。軽く叩いて感触を確かめ……。
ステラがコカトリスシートを俺の方に向ける。
つぶらなコカトリスと俺の目線が合った。
そしてステラの後ろには、すでに六個のコカトリスシートが綿入れを待っている。
「……すごい魔導トロッコになるんだぞ」
俺も同意見だった。
想像もつかないぴよみ溢れる座席になりそうだな……。
心の目でぴよトロッコを想像して欲しいんだぞ!(。•̀ᴗ-)✧
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