537.ナナのアドバイス
「そういうわけで、知恵をお借りに来ました」
ステラ達はナナの工房を訪れていた。
レイアは出掛けているらしく、ナナが着ぐるみ姿で出迎える。
「……あなたのそういう姿勢、嫌いじゃないよ」
「ありがとうございます。目的のためには手段を選ばないのがわたしです」
ステラのその言葉に、ディアとマルコシアスがこそっと言い合う。
「……はっきり言い切ったぴよね」
「母上にはそんなところがあるんだぞ」
マルコシアスが、視線をステラが腰にぶら下げているバットに向ける。
実際、ステラの気質は縛りを好むゲーマーに近い。
「まぁ、入ってよ。僕はご飯の途中だけど」
「すみません、お邪魔します」
「お邪魔するぴよー!」
「お邪魔しますなんだぞ」
家の中は昼だというのにかなり暗い。
完全に外の光を遮断していた。
「明かりをつけるね」
ナナが羽を天井に向けると、室内灯が付く。
……リモコン機能がついているらしい。
室内灯がつくと、ナナは着ぐるみを亜空間にしまった。
リビングのテーブルには、大量の輪切りのトマトが乗った皿がある。
「トマトマぴよ?」
「そう、トマトマだよ」
「パンの香りもするんだぞ」
トマトからちょこんとパンが見える。
「埋もれていますね……」
「この村で買ってきた、トマト10倍ハムサンドだよ」
ナナはうきうき顔でトマトめちゃ乗せハムサンドを頬張る。
「ほぼトマトなんだぞ」
「トマトの補佐役にはパスタとかもあるけれど、やや硬めのパンもいいよね。トマトを引き立ててくれる……」
「パンがすっかり脇役ぴよ」
「さすがですね……」
もにゅもにゅ。
ナナはあっという間にトマト10倍ハムサンドを食べきり、ステラ達に向き直る。
「さて、それで何の用かな?」
「実は――」
◇
ステラはナナに魔導トロッコの件を話した。
ついでに図面も渡す。
「なるほど、図面はこれか」
ナナは一読すると、ステラへ図面を返した。
「もういいのですか?」
「うん、構造自体は標準的だし」
ナナはトマトジュースを飲み、
「衝撃吸収の仕組みはあるけど、背もたれにさらに衝撃吸収機能をもたせるやり方もある。お金はかなりかかるけど」
「ふむ……それくらいなら、掛け合いましょうか」
「気前いいぴよ」
「貯金をつぎ込むスタイルなんだぞ」
「あとは……座席をコカトリスの形にはしないんだね」
「はっ……!!」
ステラは雷に打たれる。
脳裏には巨大なコカトリスの形をした、ふっかふかの座席……クッションはそれより小さくて、胴長のコカトリス――。
「閃きました!」
ステラは勢いよく立ち上がった。
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