534.ふれあえない訳
ロウリュを出て村のカフェに行く。
ここは大樹の家を改造したもので、ゆったりとしたスペースで楽しめる。
季節を考えない様々なドリンクとデザートが人気だな。
カミーユ達はにんじんミックスジュースを飲んでいる。秘密のブレンドで甘みとコクが売り……らしい。
「気になったんだが……ザンザスに住んでいて、コカトリスとは触れ合わないのか? 触ったのは今回が初めてと言っていたが」
雑談のひとつとして、俺はラズベリーティーを飲みながらたずねた。
「それはわたしも気になりました。ツアーとかもやっていると聞きましたし」
ステラも気になったらしい。
「ツアーといっても、お手軽になったのは最近のことですから」
「ぴよ、意外ぴよー」
「それならふれあい経験がないのも納得なんだぞ」
ディアとマルコシアスは果汁たっぷりメロンジュースを飲んでいた。
「そうだったのか……」
「マスターレイアが、ぐっとハードルを下げたのです。それまでは市民が簡単に行けるモノではなかったですから」
「そうですね……ぴよちゃんはパワフルですし」
ステラが頷いている。
「マスターレイアがツアー体制の強化に乗り出すまでは、そこそこ高価なものでした。今はお手軽に行けるようになりましたが……」
冒険者は高給取りだからな。
必然、冒険者が先導するツアーは安くない。
レイアは確か、高齢の冒険者を再雇用とかしていたはずだな。そうしてツアー体制を強化したのだろう。
そこでカミーユ達は顔を伏せる。
「でもっ! そうなったときにはお仕事が忙しくなってて……! 私も副ギルドマスターですし!」
「「納期ー!」」
「ツアーは予約制なので、悲しみが発生いたします……!」
「……そうか……」
ほろり。
社会人あるあるだな……。
不定期に仕事が降ってくるような職場だと、時間厳守のレクリエーションは難しい。
「ぴよ! ここにいる間に、たくさんさわさわしていくぴよよ!」
「はい、そうします……!」
「じゃあ、手を出すぴよ」
「は、はい?」
カミーユの差し出された手を、ぴょこんと移動したディアが羽でもみもみする。
「はわわ……!」
「なかなかの素質ぴよね。もっともっと磨きをかけるぴよよ!」
「わ、わかりましたっ!」
「ぴよ! じゃあ、次はこっち――」
こうしてディアは鍛冶ギルドの面々と握手していく。
マルコシアスが俺にこそっとささやく。
「多分、さっきのが羨ましかったんだぞ」
「だろうな。しかし、悪いことじゃないし」
カミーユ達もディアの触り心地を楽しんでくれたみたいだしな。
こうしてカミーユ達はほくほくしながらザンザスへと帰っていった。
何かあったら鍛冶ギルドを頼ってください、との言葉を残して。
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