533.隠された理想郷
「いえ……」
カミーユは少し顔を伏せる。
「何かあれば言ってくれていいんだぞ。やれることは便宜をはかるつもりだ」
もしかしてコカトリスが苦手だったりするのか。
もちろん、そういう人もいるかもしれない。
「実は――」
「実は?」
「コカトリスに触ったことがないのですっ! ザンザスで生まれ育っていながらー!」
カミーユ達が申し訳なさそうに叫ぶ。
「わたしも!」「私も!」「僕も!」
んん?
今回来た鍛冶ギルドのカミーユ達は全員、コカトリスと触れ合ったことがないのか……。
「全員がそうなのか?」
「ギルドマスターからついでに触ってきたら、とは言われました」
俺とカミーユのやり取りを聞いていたステラがすすっと身を乗り出す。
「なるほど……! それはいい機会ですね!」
「ぴよ! あたしたちと交流を深めるぴよよ!」
ディアはぴよぴよして、ロウリュのコカトリス達と話をする。
「今、許可を取っているんだぞ。ちょっと待つんだぞ!」
「「ありがとうございますー!」」
コカトリス達は――カミーユ達をじっと見つめているな。
「ぴよっぴよ……」(良きもふもふ……)
「ぴよよ? ぴよ」(ぼくたちを触りたい? ぼくたちも触りたい)
「ぴよぴ」(相互もふもふ、ということで)
「ぴよ! それでいいと思うぴよよ!」
「「ぴよよーー!!」」(相互もふもふーー!!)
コカトリス達が立ち上がり、ゆっくりとカミーユ達に近づく。
「オッケーぴよよ!」
「そうですか……! ありがとうございます!」
「ぴよ! こっちのぴよもカミーユ達を触りたいみたいぴよ。お互いにもふもふするといいぴよよ!」
コカトリスはこちらを触るのも好きだからな。
ラビット族はこの村には一人もいなかったし、気になるのだろう。
「いいですよ……! お互いにもふもふです!」
「「わーい!」」
かわいい。
ロウリュでテンションが上がっているのもあるのかもな。
それからコカトリスがふもっと胸元にカミーユ達を抱き寄せる。
「ぴよー……」(いいねー。しっとり、なでらか……)
「はわー! なんだかひんやり、お日様の匂いが……!」
「ぴよよ……!」(中々の逸材……!)
「ああ、これがコカトリスの触り心地なんですねー!」
カミーユ達もコカトリスのふわもっこに感動しているようだな。
「フロントもおすすめですが、バックもおすすめです。ぴよちゃんの背中は隠された理想郷です……!」
ステラがカミーユ達にアドバイスしている。
「本当ですか!? こ、ここまで来たらぜひ……!」
うむ、コカトリスはしかもひんやりしているからな。こうして長時間遊んでも大丈夫。
コカトリスを含めて話すことで、カミーユ達とステラも距離を縮めることができたようだ。
ロウリュ交流会は大成功だな……!
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