529.砂を知る人
それから色々と聞いて回ったが、南に詳しい人間は見つからない。
レイアも少し行ったくらいで、何週間も滞在したことはないそうだ。
「なかなかいないぴよねー」
「北よりも遥かにレアなんだぞ」
ディアと子犬姿のマルコシアスを抱えながらである。まぁ、勉強になるかもしれないし。
うーむ……シュガーもブラウンにも聞いてみたが、やはり南は不案内か。
だが一人だけ知っている住人がいた。
イスカミナである。彼女の工房で話を聞く。
「砂の諸国は一時期いましたもぐー!」
「おおっ、あるのか」
「数カ月お仕事してましたもぐ」
「ぴよ! ながぴよね!」
ステラもそこまでは滞在してなかったな。
通りがかりのレベルと言っていた。
「どうぞもぐー」
「悪いな、ありがとう」
「ぴよ! 恵みに感謝ぴよー!」
来客用の紅茶とセットで出てきたのは茹でたサツマイモだ。
ほろほろ甘く、それがちょっと渋めの紅茶によく合う。
「はふはふぴよ……。イスカミナのサツマイモはおいしーぴよね!」
「お祭り以来だけど、しっかり甘いんだぞ」
「おかわりもありますもぐ!」
確かにこのサツマイモは美味しい……。
おっと、砂漠の諸国を聞かなくちゃな。
「それで――向こうはどんな感じなんだ? 人となりとかは?」
「国が小さくて、自然が厳しいもぐ。そういう意味では職人気質の人は多いもぐ」
「ふむふむ……」
「資源争いの歴史もあるし、ちょっと排他的もぐね。この辺りはザンザスとは違うもぐ」
なるほどな。
ザンザスは自治交易都市としても歴史が長い。
ダンジョン(コカトリス)目当ての観光客も来るし、かなりオープンな土地柄だろう。
対して砂漠の環境は厳しい。
それが差になっているというわけか。
「でもヴァンパイアと同じくらいもぐ。大丈夫もぐよ!」
「ぴよ! トマト好きの人達ぴよね……」
「あれよりかは特徴なくて当たり前かもなんだぞ」
「ヴァンパイアは着ぐるみ種族だからな……」
悪い人達では全然ないのだが、インパクトはやはり強い。
「あとはエルト様の植物魔法でのプレゼントは多分、喜ばれますもぐ。野菜や果物もそれなりに貴重ですもぐ」
「それは考えておこう」
「向こうの料理は……そうですもぐ、結構癖はありますもぐ。この村の人は大丈夫でしょうけどもぐ」
「なにかあるぴよ?」
「もっぐ! この辺りの人は、辛いものが好きですもぐ!」
むっ、スパイスをよく摂取するということか。
それは良い情報だな。ステラも喜びそうだ。
何か良いのがあれば、教えてもらうのも手だな。
「よし、それじゃイスカミナも来てくれないか?」
「喜んでもぐ!」
イスカミナが勢いよく返事をしてから、首を傾げる。
「……けっこー不安ですもぐ?」
「……博士と一緒だからな」
途中で放置される可能性もあるし……。
保険は自分で用意しておこう。
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