527.南へ
学会の内容を要約するとこうなる。
『北の国でアイスクリスタルの群れを撃破した英雄ステラ。その攻略法について広く共有しましょう』
「ほむ……。わたしのアレですか……」
「竜巻を駆け抜けたアレなんだぞ」
両手にバットで打ちまくったアレか……。
俺は見ていないので、想像の範囲だが。
「会場はここから南に行った、砂漠の小国だな。本当に近いのか、これ?」
ヴィクター兄さんは空を飛べるからな。
感覚は俺達と違うのかもしれない。
「ウゴ、地図見る?」
「ぴよ! 南はこの辺ぴよー!」
ディアが地図をぱらぱらと開く。
「覚えているのか、偉いぞ」
「ちゃんと勉強してますね……!」
ふにふに。
家族みんなして指先で撫でる。
「ぴよ、ありがとぴよよ!」
そしてディアは目当てのページを見つけたのか、そこで羽を止める。
「ここらへんぴよ!」
ディアがこちらに向けて地図を広げる。
「おお……。ふむ、近くはないな」
「えーと、この縮尺からすると……この前の港から近そうですが」
港からちょっとズレた南か。
馬車だと遠回りだが、直線距離はそうでもない。
「そうだな、そういう意味では近いか」
学会の日程は2〜3日程度らしい。
ヴィクター兄さんに連れて行ってもらえれば、行けなくもない。
手紙を渡してきたくらいだし、ある程度は頼れるだろう……うん。
「精霊学会か……。本格的な魔物の学会は行ったことがない。勉強になるかもな」
精霊は自律行動をする魔力――そんな定義だったか。知性はなく、一定の行動パターンを繰り返す。
そのため精霊は魔物として討伐対象になっている。
荒ぶる自然の具現化とでも言おうか。
魔力そのものという性質上、魔力が濃ければどこにでも発生しうる。
その意味ではとてもポピュラーな魔物である。
「そうですね……。わたしも興味があります」
「わふ。地図にちょこっと書いているんだぞ……。この街の近くに砂ぴよの生息地?」
「えっ!? ……本当ですね」
街からちょっと離れたところにさらっと書いてあった。見落としていたらしい。
瞬間、がっと俺はステラに両肩を掴まれる。
ステラの両目はすでに輝いていた。
「実は……わたし、砂ぴよちゃんはそれほど知らないんですよね。レアぴよですから」
「わ、わかった。でも本命は学会だからな」
「ありがとうございます……!」
ステラがにこーっと微笑む。
……なので俺は、胸の中の疑問を口にできなかった。
両手にバットを振り回し、ナナをボードにする攻略法は共有できるのであろうか?
やればできるかもなんだぞ!!!✧◝(⁰▿⁰)◜✧
お読みいただき、ありがとうございます。