526.学会への誘い
ヴィクター兄さんはもう帰る時間らしい。
お土産を大量に買っていった。
今、まさに宿舎の外で帰り支度(大人買い)をしている。
「悪いな、リヤカーまで売ってもらって」
「いや……お金は払ってもらったから、気にしないでくれ」
しかも特急料金ということで、通常の単価にかなり上乗せして払ってくれている。
「お買い上げありがとうございますにゃーん」
ブラウンもほくほく顔だ。
「草だんごはここにあるのが全部ですー」
テテトカがリヤカーの中にカゴを置く。中は売り物の草だんごでいっぱいだ。
リヤカーにはその他に果物やトマトが詰め込まれている。トマトは家族向けらしい。
「うむ、ありがとう。また来るときは……時間があれば草だんごを学びたいものだ」
「そうだな……」
スキルのことは一部の住人にしか共有していないが、ヴィクター兄さんになら良い気はする。
コカトリス相手の草だんごにしか使わないだろうし……。
「ぴよ。今度、一緒につくるぴよよ!」
「こねこねするんだぞ」
「期待していよう。では、エルトも元気で。会えなかった皆によろしくな」
「ああ……博士も元気で」
「……そうだ、興味があればだが――」
ヴィクター兄さんが俺に近寄ってくる。
「手紙を渡しておく。あとで読んでくれ」
「ん? それはいいが……返事はどうすればいいんだ?」
「適当にまた来る」
「本当に適当な答えだな」
「まぁ、興味があれば、だ。ではな」
そう言うとヴィクター兄さんはリヤカーを引く体勢になった。
そのままふよよーとリアカーごとヴィクター兄さんが宙に浮く。
きらっ!
そのまま猛スピードで空を駆けて、ヴィクター兄さんは去っていった。
「……嵐のように去っていったんだぞ」
「ぴよ……。忙しい博士ぴよね」
うむ……。だが、コカトリスのためにわずかな時間を作って来てくれたのは確かだ。
「さて、貰った手紙には――」
◇
その日の夕方。
家に戻って俺は今日のことをステラとウッドに報告した。
「わたしが第2広場で冒険者たちに闘魂注――いえ、ささやかな実技訓練の指導をしている間に……」
「ウゴ、すぐ来て帰っちゃったんだね」
「ああ、草だんごをあるだけ買っていったな」
そして手紙を渡して去っていった。
「それで手紙にはなんと……?」
「精霊学会が近くであるらしいんだ。その企画案だな」
まだ正式決定していないが、ヴィクター兄さんの人脈で情報をキャッチしたらしい。
もとい、精霊はほぼ魔物扱いなので仕事柄というべきかもだが。
「ほうほう……。しかし、なぜまた?」
ステラが首をかしげる。俺は軽く咳払いをした。
手紙には俺に渡した理由も書いてあったのだ。
「……この前、北の大地で雪の精霊を大量に倒しただろう? あれが取り上げられるらしいんだ」
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