518.ロウリュの中で
第2大樹の塔、ロウリュの部屋。
「ふぅ……。やはりこのロウリュは、入浴とは違う良さがありますね……!」
ステラは本格的なロウリュを堪能していた。
とはいえ、部屋の外では他の階の作業音が聞こえるが。
トンテンカン、トンテンカン。
ロウリュが始まって10分くらいだろうか。
ジェシカはすでに汗だくだくである。
「どうしてあなたは、汗が少しも出ていないのですわ……?」
「まだ汗が流れるレベルではありませんからね……!」
ちなみにステラはこの10分の間で――ちゃっかりコカトリスに挟まれる位置にいた。
( ╹▽╹ )( ꈍᴗꈍ)( ╹▽╹ )
( ╹▽╹ )
「ぴよ……!」(いつの間に……!)
「ぴよ!」(やはり『デキる』!)
寝ぼけコカトリスだけは、下の段で寝転がっているが。
「ぴよー……」(ほかほかー……)
ジェシカがコカトリスを見つめる。
どこかでこの光景を見たことがあるような……。
コカトリスに挟まれる……。
いや、気のせいだろう。
ジェシカは頭を振って、ステラへたずねる。
「……私も冒険者の端くれ、極限環境にはそれなりに慣れてますわ。でもコカトリスはどうなのでしょう?」
知識としては、ジェシカもコカトリスが世界中にいることは知っている。
雪原にも砂漠にも深海にもいる。
しかし、実際にはどうなのか?
「ぴよちゃんは大丈夫ですよ。しかし、よくぞ聞いてくれました……! 詳しく、ぴよちゃんについて語りたいところですが……長いですよ!」
「前置きはしてくださるのですわね」
早口にもなっているが、それは言わないジェシカである。
「いいですわ。もう少しロウリュにいるのですもの」
ぴよぴよと一緒にいる不思議な空間だが、ジェシカにもロウリュ自体が良いモノなのはわかる。
入浴と違った良さがあるのは間違いない。
「話の前にちょっと水を差しておきますわ」
ジェシカが杖を軽く振るうと、ライオンヘッドの杖の先から軽く水が出る。
ばしゃー……。
もうもうと水蒸気が立ち込めてきた。
全身が熱い……。しかし、体の芯から温まる。
ステラが人差し指をぴっと立てて――
「コカトリスは熱耐性も極めて高いのです。わたしは知っています――あらゆるものが灼熱の太陽と風に晒され、多肉植物さえも稀な世界に――ぴよちゃん達は元気にぴよぴよしているのです!」
もみもみ。
ステラが横にいるコカトリスのお腹を揉む。
「ぴよぴ」(気持ちいい……)
もみもみ。
ステラの調子に、早くもジェシカがのけぞる。
「そ、そうなのですわ……」
「もちろん世界の南にはいくつもの砂漠があり、それぞれ個性的な動植物がありますが。ぴよちゃんはそれぞれに独特の生き方で対応しているのです。例えば……ほら、このぴよちゃんのお腹は熱くありませんよ!」
「そ、そうなのですわ?」
「はい、触って確かめてみてください!」
ステラに言われるまま、ジェシカがコカトリスの隣にいく。
そのままコカトリスのお腹をもみもみ……。
ふわもっこの羽は熱を持っておらず、むしろひんやりとしていた。
「本当ですわ。むしろ涼しいくらいですわ」
「ぴよちゃんは体温を自在に操りますからね。冬はほかほか、夏はひんやりとしているのです!」
「ぴよ」
コカトリスはそのせいか、平気な顔をしている。むしろ体の周囲の熱を楽しんでいるようだ。
ジェシカの汗はもう、止まらなかったが。
「……本でちらっと読んだことはありますけれど、実際にはこうなっているのですわね」
「もちろん! これはぴよちゃんの特性のひとつに過ぎません。他にも色々と――」
……結局、ジェシカが音を上げてロウリュを出るまで、ステラの話は続いたのであった。
ちなみに我にそんな便利な機能はないんだぞ。
我が主を抱き枕にして、夏を凌ぐんだぞ!!!✧◝(⁰▿⁰)◜✧
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