507.ロウリュ
それから土風呂の増築の話を詰めて、解散になった。
「よし、数日中に土風呂の増築はやってしまおう」
「ですにゃ! 土や資材の搬入準備を手配しますにゃ!」
「わーい。土風呂の塔ですー!」
テテトカも喜んでいるな。
なによりだ。
そして仕事を終えて帰宅する。
「ぴっぴよー」
「ぴよよ〜」
ため池の土手の上をコカトリスがお散歩している。
日が高くなってきたおかげで、広場にも人が多い。
串を持ち寄ったり、野ボールをしていたり……。
わいわいと楽しそうだ。
春らしい、良い雰囲気だな。
◇
「おっ、それは……?」
家に着きリビングに行くと、ディアがふわっとした布をスカーフのように体に巻いていた。
黄色に黒の線が入っている布だな。
ソファーの上でディアがポーズを取る。
「どうぴよ?!」
「かわいい、似合っているぞ……!」
本当にかわいい。
おしゃれも似合っている。
ステラがふふりと胸を張っている。
「ちょうど良さそうな布を買ってきました。まずは服の前に、布に慣れないとですからね」
「さすが、かあさまぴよっ!」
「抜かりないんだぞ」
ちなみにマルコシアスも、コカトリスパーカーみたいなパジャマを着ている。
「マルちゃんも慣れてる途中ぴよ」
「わっふ。着ぐるみ道は一日にしてならずだぞ」
「ウゴウゴ、堅実」
ウッドもスカーフを巻いている。
淡い黄色で、男の子っぽいデザインだ。
「ウッドはスカーフか……。かっこいいぞ」
「ウゴ! ひらひらしてるのも、新鮮でいいね!」
ウッドも嬉しそうだな。
「ウゴ……ララトマも気に入るかな?」
「きっと気に入りますよ!」
「素敵だと思うぞ」
ララトマの反応が気になるか。
それこそがちゃんとした自我だと言えるな。
いいことだ。
そして夜ご飯の時間になった。
今日はアスパラガスのサラダにトマトの煮込みだな。健康的である。
「もぐもぐ……」
食べながら、俺は今日一日のやり取りをステラに報告した。
「実は今日、ナールとテテトカがやって来てだな――」
「珍しいですね」
「うん、新しい事をやることになったんだが……」
土風呂やサウナだな。
ステラの出身は東方である。
もちろん土風呂は他にないだろうが、サウナはどうだろうな。
もしかしたら聞いたことはあるかもしれない。
「サウーナ、ですか……? ふむふむ……。それと似たようなものでしたら、ありますよ」
「おっ、あるのか」
やはり俺が初めて考えたわけではなかったな。
なんだか安心した。
「わたしの故郷よりさらに北ですかね。北の山脈寄りのエルフに、そういう習慣がありました」
「そうなるとかなり遠いな……。今も交流はまばらな所だ」
「あとはその周囲のドワーフもですね。ロウリュ……とか言っていたような。部屋に熱した石を集めて、水をかけます」
「なんだかたのしそーぴよ」
「お湯に入るのとはまた別に、体がぽかぽかします……!」
「しかし妙だな。良さそうな風習なのに、ここまで来ていないとは」
俺の言葉に、ステラが周囲をうかがう。
「……これは数百年前の話ですが」
「ふむふむ」
「ロウリュの風習はある地点で途絶えています。そこから先には伝播していないのです」
「ほう……」
……なんだかオチが予想できるような。
「着ぐるみでほかほかするヴァンパイアには、ロウリュは必要ありませんからね」
サウナよりも着ぐるみに注力する種族がいるんだぞ✧◝(⁰▿⁰)◜✧
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