502.トマトスープの後に
また凄い世の中の分け方だが、ドリアードならあり得る。
俺もテテトカとの付き合いは長いからな、うん。
「……ちなみにスープはどうだい?」
ナナが若干身を乗り出して聞いてくる。
「うん、濃厚で美味しい。ダブルトマトもいい感じだ」
これは本当だった。
トマトの二重奏が新鮮な味わいを醸し出している。
「にゃん。ナナのレシピ通りにしましたにゃん!」
「凄いな、プロ並みの腕前だ」
「商人はよく移動しますにゃん。自然と料理は上手くなりますにゃん」
「そういえばー、よく埋まりに来る人たち――冒険者さんでしたっけ。その人たちも手先は器用ですー」
「不器用は死ぬからね」
ナナがスプーンに乗せた根菜とスープを、くちばしの奥に突っ込む。
その食べ方はまさに器用そのもの。
今の俺がエルぴよでやったら、確実に惨劇だ。
「いいね……。例えるなら、頑固な老指揮者と新鋭の楽団のコラボレーション。伝統ある劇場で奏でられる、刺激的なオーケストラ……」
「ぴよ」(なに言ってるかわからないけど、この人デキる……!)
「ぴよっぴよ」(なんだろう、『風格』を感じる。野菜の深みを理解している人特有の……『風格』を)
「ぴよちゃんもナナを只者ではないと感じてるみたいだねー」
「まぁ……ヴァンパイアだからね」
ふふりと少し誇らしげだ。
それから俺たちは歓談しながらトマトスープを堪能した。
……けっこうな量があったな。
お腹がたぷたぷしてきた。
コカトリスはご飯を食べて眠くなってきたのか、寄りかかってうとうとしている。
「ぴよぅ……」(もう寝る、寝落ちる……)
「ぴよっぴ……」(ぎりぎり、わたしは起きてます……)
「それで、僕に用があるんだって?」
トマトスープをがぶがぶ飲んだナナが話を振ってきてくれる。
いくぶん、上機嫌に見えた。
「ああ、ディアが服を着たいみたいなんだ」
「服ですにゃん?」
「エルぴよっぽい、顔がちょっと出るような――」
「ふむふむ、子ども用の着ぐるみだね?」
ナナにはすぐにわかったようだ。
さすがヴァンパイアである。
「そう、俺はあまり詳しくないのだが……。そういうのはあるのか?」
「あるよー。子どもは成長が早いから、ツギハギみたいな服だけど。もちろんぴよっとしてる」
「へー。面白そうですねー」
「ほぼヴァンパイア内でしか出回らないから、入手はそれなりに難しいけど……」
「もちろんお金は払うから、手に入れられないか?」
「わかった。ヴァンパイアの貴族にも負けない服を用意するよ」
そこで俺はすっと付け加えた。
「ウッド用も欲しいのだが」
「?!」
ナナが一瞬固まる。
が、すぐにこほんと咳払いをした。
「……なんとかするよ」
「ありがとう、恩に着る」
お読みいただき、ありがとうございます。