498.暖かくなって来たので
「ほう、いいじゃないか……!」
俺はふわもこトロッコを覗き込む。
ちょこんと乗った、ミニのコカトリスぬいぐるみが素晴らしい。
……手に取ってみたくなるな。
「にゃ。ミニトロッコとぬいぐるみの組み合わせですにゃ。シンプルだけど、これなら独自性がありますのにゃ」
「ふむ……。そうだな、ドワーフは逆にぬいぐるみみたいなのは得意じゃない、か」
普通のミニトロッコなら、他国のほうが優れたものを作る。
しかし、もこもこコカトリス付きならどうだろうか。それだけで大きな違いになり、ザンザスの強みも活かせる。
「お褒めいただき、ありがとうございます……! まだバランスやコスト面で、色々と詰めなければなりませんが……」
「方向性はとてもいいと思うぞ」
「イケると思いますにゃ」
「『コカトニア・ハウス』のラインナップに加えることも考慮して、詳細をまた報告します……!」
レイアがテーブルの上に広げたトロッコ達をバッグにもどしていく。
「……ちょっとだけいいか?」
「? どうぞ、気になるのがあれば……」
では、お言葉に甘えて。
俺はふわもこトロッコを手に取り、しばらく堪能したのであった。
◇
大樹の塔。
「はー、困りましたねー……」
テテトカはうーんと首を傾げていた。
「お姉ちゃん、どうかしたのです?」
悩んでいる姉の姿は珍しい。
だいたいのドリアードの悩みは、あと1個草だんごを食べるか、食べないかくらいなのだ。
そしてテテトカは、迷ったら食べる派である。
それゆえ、こうして首を傾げる姉は相当珍しいのだ。
ララトマが草だんごをもぐもぐしながら、テテトカへ問いかける。
「土風呂の予約を整理していたのですがー……暖かくなって、たくさんの人が来ててー」
「そういえば、最近人が多いです」
ララトマは大樹の塔の窓から、土風呂コーナーを見渡す。そこでは今日も、住人や行商人が土風呂に入りまくっていた。
……すでに土風呂コーナーの隣で、順番を待っている人もいる。
「ぼくたちには地下があったりもしますが、限界が来そうかなー」
「です。もぐもぐ、ごっくん……。考えてもらわないといけないです!」
「そだねー」
そこへウッドがやってくる。
「ウゴウゴ、収穫終わったよ!」
「はーい! 今、行きますですー!」
ララトマが嬉しそうにパタパタと出掛けていく。
テテトカはその様子を微笑ましく見送りながら、頭の中で今の話を再考していた。
問題は面積なのである。
これからもっと暖かくなれば、人ももっと来るだろう。
「……ここみたいに高くしたら、たくさんの人が入れますかねー?」
お読みいただき、ありがとうございます。