496.母と娘達
「それは――父上やナナぴよの着てるようなやつ、だぞ?」
「……ちょっと違うぴよ」
ディアはスケッチ帳を取ってくると、てててーっとラフ画を描いた。
「こう、こう、こうしてこうぴよ!」
ディアが描いたぴよ着ぐるみ。
それは顔の部分だけがマスクなぴよ着ぐるみであった。
「顔部分が違うんだぞ?」
「全部だと息苦しそうぴよ。初心者のあたしは、これくらいにしておくぴよよ」
「なるほどなんだぞ」
マルコシアスが頷く。
このあたりの慎重さはエルト譲りかもしれない。
「じゃあ、このラフ画を見せるといいんだぞ」
「……大丈夫ぴよ?」
ディアはちょっと躊躇した。
その気持ちが、マルコシアスにはよくわかった。
いままでディアが欲しいものは既製品だけだった。
スケッチ帳にしても、筆にしても。
しかしこれはレベルが違う。
そうしたことに、ディア自身が戸惑っているのだ。
「大丈夫なんだぞ。甘えてもいいんだぞ」
「本当ぴよ?」
「ホントのホントなんだぞ」
「じゃあ……マルちゃんもお兄ちゃんも、お揃いになってくれるぴよ?」
「?!」
それが家族でこのぴよ着ぐるみを着ることであると、マルコシアスにはすぐわかった。
きらきらとしたディアの瞳に、マルコシアスはぐっとサムズアップする。
「もちろんやるんだぞ!」
「やったー、ありがとぴよー!」
むぎゅっとディアはマルコシアスを抱きしめる。
それをマルコシアスはぽむぽむと抱きしめ返すのであった。
◇
「ふぅ、いいお湯でした……」
ステラはゆったりとお風呂から上がり、リビングに戻ってきた。
あとは娘達にご飯を作り、それから冒険者ギルドへと午後出社である。
とりあえず髪を拭こう。
ステラはタオルを首にかけてソファーに座る。
「さて、今日のご飯は――?」
そこでステラは言葉を切る。
ディアとマルコシアスの様子がなんだかおかしい。
そわそわしている。
「なにかありましたか……?」
「ぴよよ。かあさまに相談があるぴよ……」
頑張るんだぞ、とマルコシアスがディアに小声で応援している。
ステラの耳には丸聞こえであったが……。
しかしスルーするのが優しさだ。
「こういうのが、あたし欲しいぴよ」
「どれどれ……天才的な発想じゃないですか! 素晴らしいです!!」
ディアのラフ画をひと目見たステラは、弾かれたように立ち上がった。
「中にいるのは、ディアですよね? ぴよ着ぐるみのちょっと変形、と」
「そうぴよ……。あたしも、とうさまやかあさまみたいのが、欲しいぴよ」
「ふむふむ……。もちろん、いいですよ。それで――そわそわしていたんですね」
ステラはディアの前に屈むと、優しく抱き上げる。
「ぴよ、かあさま……」
「いいんですよ、ディアはわたしの家族です」
ステラは自分の言葉を噛み締めた。
祖国と家族を捨ててザンザスに来た自分から、こんな言葉が自然に出るとは思わなかった。
「ディアもぴよが好きで、わたしも嬉しく思うのです……!」
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