494.ぴよジャケット
雨は一日中降った。
次の日、朝起きるとすでに止んでいたが。
俺はイスカミナとアナリアを連れて、堤防の上を歩いていた。
「ふむ……排水は問題ないようだな」
池の水は多少濁っているところもある。
だが全体的にはきれいだな。雨上がりとは思えない。
水量もあふれてはいなかった。
「浄化システムも順調に稼働しています。すぐに透明度も戻るかと」
「堤防の強度もチェック済みもぐ! 予定通りの耐久性に仕上がってるもぐ!」
「何よりだな」
ふむふむと俺は頷きながら歩く。
と、そこへパタパタと堤防に上がってくる人がいた。
……ステラとレイアだ。
「手に何か持っているな……」
「ぴよグッズの匂いがしますね」
ちなみにアナリアもぴよグッズはそれなりに持っていたりする。
レイアはバッグを大事そうに抱えていた。
俺達を見かけて、ふたりが走り寄ってきたな。
レイアがるんるん気分で話しかけてくる。
「エルト様……! ちょうど良いところに!」
「レイア、どうかしたのか?」
「数日前に新しいぴよグッズのアイデアが降ってきまして……。軽く試作を作ってきました」
「なかなかいいですよ、これは……!」
ステラも乗り気だな。
レイアがバッグから、試作品を取り出す。
「……ジャケット、か?」
ほとんどコカトリスをあしらったパーカーみたいになっているが。
こんもりしているのは――おそらく浮くためだろうか。
「そうです! これから暖かくなりますし、こういうのも良いかなと……!」
「ぴよみがあって、実に良いです!」
イスカミナとアナリアがぴよジャケットを上から下まで、まんべんなく見る。
「もぐ。ふっくらしてるのは、空気とかもぐ?」
「浮く感じでしょうか?」
「さすがです、その通り! 泳ぎが不得意な方々にもぴよみを味わってもらうグッズです!」
ぴよみを味わうかどうかは……別として。
ボートも湖も池もあるし、こうしたグッズはありがたい。
「では、行ってまいります!」
「はやっ!」
ステラはレイアから素早くぴよジャケットを受け取ると、ばさっと身につけた。
「もぐ。少しだけ水は濁ってるもぐ」
「むっ……確かに。どうしますか、日を改めますか?」
ステラの言葉に、レイアが首を横に振る。
「いいえ……そのぴよジャケットには、耐汚れコーティングもしてあります。その実地性能を見る、良い機会と言えるでしょう……!」
「だそうです! ではっ!」
ステラはしゅっぱーんと堤防からダイブした。
さすが、躊躇ないな。
さらに堤防へ、コカトリスがふらっと2体現れる。
池の水を眺めてぴよぴよしているな。
「ぴよ……」(わずかに濁ってる……)
「ぴよよ?」(今日はやめとく?)
「ぴよ……ぴよっ、ぴよよ!」(いや……もう泳いでる人がいる! 負けてはいられない!)
「ぴよー!」(その通りだー!)
どっぽーん。
結局、コカトリス達は池へとダイブした。
「……行ったもぐね」
「そうだな……。家のお風呂を沸かしてこよう」
日々、ぴよグッズの開発と研究は苦労の連続なのである。
俺は心の中で頷いたのであった。
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