478.コカ博士の野望
「とにかく、俺とコカトリス達は向かい合っていた。洞窟の入口と奥で――少しして、コカトリスの群れから1体の雛コカトリスが歩いて出てきた」
ヴィクターがお腹をごそごそして、テーブルの上にコカトリスのぬいぐるみをぽんと置いた。
雛コカトリス……のつもりらしい。
「雛コカトリスはぴよー? と、てくてく俺の方に歩いてくる。俺はそれをじっと見つめていた。どうしたらいいか、わからなかったからな」
ヴィクターは羽でコカトリスぬいぐるみをスライドさせている。
「それで……?」
「うむ。雛コカトリスは俺の足元に寄りかかってきた。こんもりしてて、可愛らしかった……。気が付くと俺は、コカトリスに囲まれてぬくぬくと洞窟で休んでいた」
なるほど。
コカトリスとのぬくぬくを選んだわけだな。
「安らぎだった。エルぴよには言うまでもないだろうが……コカトリスに触れ、その温もりを満喫したんだ……」
「それがきっかけなんだな……」
「そう、一眠りした俺はすっきりしていた。雨も上がっていた。俺は他のコカトリスを起こさないように洞窟を抜け出した……驚くほど不安も焦りも消えていた」
またヴィクターはストローで紅茶を飲んだ。
「不思議なもので焦りが消えると、成績も魔法も安定した。そうして俺は――魔物学を本格的に学ぶ道に入ったのだ」
「コカトリスが恩人、そういうことか」
「ぴよにはヒーリング効果がある。疑いはない。その浄化の力は物質的な汚れから、精神的な疲れにまで幅広く効果があるのだ」
どこかの通販番組みたいな語り口だ。
「とまぁ……これが俺の話だ」
「大体はわかった……それだとコカトリスにもハマるだろうな」
うんうんと俺は頷く。
ハマり方が半端でないことには目をつむるが。
「もちろんコカトリスにはファンが多い。最近ではやはりザンザスからレベルの高い品が数多く出ているからな」
「レイアがギルドマスターになってから、相当力を入れていると聞いた」
「実際、見事なことだ。だが、まだまだコカトリスグッズには余地がある」
そう言うと、ヴィクターがお腹から小さなぬいぐるみを取り出した。
「んん……?」
ヴィクターが今着ている、特別製着ぐるみによく似たぬいぐるみだ。
少し賢そうな外見である。
「『コカ博士ぬいぐるみ』の試作品だ。どうだ?」
「自分の着ぐるみをグッズに……?!」
「ふふ……博士キャラとして、各地に出没してきたからな。ある程度の知名度は確保できている。つまり、売上の見込みもある」
「いや、俺が言いたいのはそういうことではなく――どういうつもりなんだ?」
「フィールドワークには金がかかる。事前の調査、現地で案内人を雇う、コカトリスへのおやつ……全て自費でやっているからな」
「家の金は使ってないのか」
ヴィクターがずいっと身を乗り出した。
「これは俺のライフワークだ。ゆえに博士キャラで稼いだ金しか使ってない。しかし、それだと中々安定しない……規模を広げるのも不可能だ」
「そこは線引きをしているんだな」
「ルイーゼに色々と話を呑ませるにも金を使った。だが、お前と会えたのは良かった」
「……?」
なんだ?
一瞬、嫌な予感がした。
ヴィクターがごそごそとお腹から、また小さなぬいぐるみを取り出す。
「……」
「やはり男だけだとバランスが良くない。このほうが断然良い。そうは思わないか?」
ヴィクターが取り出したぬいぐるみは俺を――エルぴよを模したぬいぐるみだった。
前にもお伝えした通り、コカ博士で統一するんだぞ。
よろしくお願いしますなんだぞ✧◝(⁰▿⁰)◜✧
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