468.台座の間へ
「それは――本当なら大発見だな」
俺はザンザスについて書かれた本を思い出していた。
ザンザスのダンジョンも正確な由来は不明。
真実は神話に彩られ、諸説入り乱れているのだ。
神の祝福を受けた『使徒』の手による建造から、コカトリスの神が寝床として造ったとか――様々な説がある。
「何か年代や建造者の手がかりになるものがあればいいのですが……」
そこへナナがすっと近づいてくる。
「なになに? 何か見つかった?」
「いえ、そういうわけではないのですが――ナナ、楽しそうですね……」
「そりゃ学者としてはテンション上がるよ。間違いなく古代で未知の建造物だもの」
ぴぴぴぴこここ。
ナナが羽を細かく動かしている。
……あの雷撃でヴィクターは肩こりが取れたとか言っていたが、ナナも肩こり解消したのかな?
軽快な身のこなしである。
それだけテンション上がっているんだな。
と、ヴィクターもナナの隣に来て羽をぴこぴこし始めた。
「ふむ、確かに……。この海底神殿については、俺の本業――魔物学とも関係がある。論文にまとめて発表しよう。今年の学会賞も狙える」
「ちゃんと考えているんだな……」
良かった。
ただの着ぐるみ博士ではなかった。
「研究のために長期の出張許可も貰えるだろう。ふふっ……」
ぴぴぴぴこここ。
「ウゴ、とっても楽しそう……」
「……そうですわね……」
ちなみにコカトリス達もすっとナナとヴィクターの後ろに集まって羽を動かし始めていた。
ぴこぴこぴこぴこ。
「ぴよよ」(ぐっど、羽ばたき)
「ぴよ」(あたしはただ、なんとなく)
そんな話をしながら、海底神殿の廊下を歩いていく。
外から見た海底神殿はかなり大きかったが、中も広大だな……。
全て歩き回ったら何時間もかかりそうだ。
すでにさっきの大広間から数十分は歩いている。
だが――俺は知っていた。
もうすぐ中心部だ。
記憶通りなら、そこには台座の間があるはず。
ゲームだと……そう、台座の間にはボスがいた。
それほど強いボスではなかったが……ん?
そこで俺は気が付いた。
本来、海底神殿には様々なザコ敵が出現する。
それが今は何も出現しない。いたのは星クラゲだけだ。
他の魔物の気配はいっさいない。
やがて回廊が終わり――俺達は台座の間へとたどり着いていた。
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