458.ナナ、第2の武器
すちゃ。
「よっと……」
ナナが飛び込んだ先は、暗く湿っている空間だった。視界が悪いどころか、ない。
全く何の光もないのである。
闇を見通すヴァンパイアのナナでさえ、少しも見えない。
「……魔力が濃厚だね」
全身がざわつく。
間違いなく相当数の星クラゲがいるのだろう。
だが、それにしても暗い。
夜空よりも遥かに闇である。
ダンジョンの中ではこのようなことも、ままある。
不可思議な光があるなら、超自然的な闇もあり得るのだ。
睡眠中の星クラゲは光らない。
気配があるのに光らないのは、おそらく睡眠中だからだろう。
いきなりライトを付けると魔物に一斉攻撃される危険がある。
「……ふぅ」
ナナは呼吸を整え――お腹をごそごそして武器を取り出した。
新しい武器は一見、カラフルな鉄の棒である。
しかしこういう状況向けの範囲攻撃ができるのだ。
この取捨選択こそナナの強みである。
「よし……!」
ナナが意を決して、ライトを付ける。
ぺぺかー!
一気に周囲が明るくなる。
ナナは同時に、闇の中を魔物が動くのを感じ取った。
星クラゲが目覚めたのだ。
ナナの目の前には、数十の星クラゲがいる。
さらに視界の奥には数百――物凄い数の星クラゲの大群である。
「――!!」
クラゲなので声を上げることもない。
だが、確かに星クラゲは戦闘態勢に入っている。
歴戦のナナぴよにはそれがわかった。
「いくら多くても……僕にはコレがある!」
ナナが掲げたのはカラフルな七色の棒である。
それはナナの魔力でバチバチと電撃を弾かせていた。
星クラゲがわっとナナへ襲いかかる。
触手が着ぐるみに触れる直前、ナナが棒の魔力を解き放った。
バリバリバリ!!!
派手な音を鳴らして、雷撃が飛び散った。
青白い雷撃はナナを中心にして、襲いかかった星クラゲ達を焼き尽くす。
この『電撃バリバリ棒』はナナの前任者達が作り出したマジカルな武器である。
この雷撃の射程は短く、精密な操作もできない。
反面、破壊力は高く大群を迎撃するにはうってつけなのだ。
「使いどころを見極めれば、実用的な武器なんだけどね……」
ナナはひとりごちる。
名前がややダサいのだけが玉にキズであるが……これで歴史書にも載っているので、いまさら変えられない。
「どんどん来るけど……的になるようなものだね。そろそろ2分経つけど――誰が来るかな?」
もうちょっとで雷撃を打ち切らないといけない。
歪みから入ってきた仲間も巻き込みかねないからだ。
ナナは電撃バリバリ棒から攻撃を放ち続けるが、ボス個体は見当たらない。
どこかで探しに行かないと――その瞬間。
ちゃぽん。
ヴィクターぴよが歪みから降ってきた。
そのまま、ぽてっとナナの前へと着地した。
雷撃の攻撃範囲のど真ん中である。
「……あっ」
ヴィクターぴよは雷撃をまともに喰らう。
バリバリバリ……!!
「あばばばばば」
「そんなー! まだ2分経ってないでしょ?!」
ナナが慌てて雷撃を打ち切った。
確かにまだ2分は経過していない。ヴィクターぴよが先走って突入してきたのだ。
とはいえ、思いっきりヴィクターぴよは雷撃を浴びてしまった。
煙を上げて仁王立ちのヴィクターぴよへ、ナナが駆け寄る。
「大丈夫!?」
「……」
ヴィクターはゆっくりと着ぐるみヘッドをナナへと向ける。
どうやら中身は動けるらしい。
「肩こりが……とれた!」
博士は無事なんだぞ!!!✧◝(⁰▿⁰)◜✧
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