457.飛び込み
「……わかったよ」
やれやれ、という感じだが……。
とはいえナナぴよは、ある種の運動美を見せてくれるらしい。
ナナがくるっと反転する。
歪みに背を向け――膝を曲げている。
ま、まさか……。
「ふー……」
ひとつ大きく息を吐くと、ナナは両手の羽を伸ばす。
ダンッ!
しゅぱしゅぱしゅぱ……。
そのまま華麗に連続バク転を決めていく。
着ぐるみとは思えない軽やかさである。
「おー……!」
飛び跳ねながら――ムーンサルトまで決めていく。
最後は歪みにちゃぽんと吸い込まれて、消えて行った。
「ぴよよー!」(すっごーい!)
「ぴよっぴよ!」(近年まれに見る味わい深さ!」
「ぴよ……!」(匠の技が光る……!)
どうやらコカトリスのお気に召したらしい。
ぴよぴよと興奮している。
「さすがナナぴよ、素晴らしい着ぐるみの扱いです」
俺はヴィクターの隣にすっと移動する。
「……あれ、できるか?」
「着ぐるみでバク転は難しい。俺は3回に1回くらいしか成功しないな」
成功するのかっ。
俺にはとても無理そうだが……。
と、ステラが俺に向けてサムズアップしていた。
「大丈夫ですよ、エルぴよちゃん。エルぴよちゃんなら、すぐにバク転くらいは……!」
いやいやいや。
割と超人的だからな、それ。
いくらアシストがあると言っても……。
「そろそろ2分経つな。次は俺が行こう」
「ぴよ!」(次の挑戦者は何を見せてくれるのか!)
「ぴよぴよ」(期待はとっても高まります)
ヴィクターは羽を大きく横に広げる。
……何を始めるつもりなんだ?
「ウゴ……浮いてる……」
「すーっと浮かんでいきますわ」
ゆっくりゆっくり、ヴィクターぴよがそのまま浮上していく。
無音、そして揺れもない。
ヴィクターはただ静かに上昇していく……。
「ぴよ……」(浮きます、浮きます……)
「ぴよよ……」(あめいじんぐ……)
そのまま5メートルくらいの高さに浮かぶと、今度はすすっと前に進んで行く。
「……どこかで見たような……」
思い出した。
クレーンゲームみたいな動きだ、コレ。
ぬいぐるみを運んでいるかのような……。
まもなく、ヴィクターは歪みの真上で停止した。
ぴこぴこと羽を動かしながら、
「では、行ってくる」
「……行ってらっしゃい」
俺もぴよっと羽を振るう。
もはやツッコむまい。
「ぴよぴよ」(いってらー)
「ぴよぴ」(がんばってらー)
ちゃぽん。
ヴィクターがそのまま落下し、歪みへと吸い込まれていった。
「……ぴよ」(静寂の中に味わいあり、不可思議にして奥行きがあります。自然なようでいて、確かな技量が根底に感じられます。ぴよ飛び込みの歴史に残る、新境地といえる飛び込みです。まる)
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