456.歪みの向こうへ
ステラはすぐに体勢を立て直す。
良かった、うまく着地できたようだ。
「さぁ、ちょっと離れていて下さいね……!」
「「ぴよー!」」(はーい!)
ステラがロープを解くと、コカトリス達が散る。
「ウゴ、ぞくぞくとクラゲが出てくる……」
「間違いないですわ、あそこが中心部ですわ」
ヴィクターがぴよっと羽を上げる。
あっ、これは……。
「軽くなったから、こちらも加速するぞ。さん、にー、いち、ぜろ!」
「あっ、はいですわーー……」
いきなりぎゅんと加速する。
だがある程度、みんな察していたのか……ウッドも対応できている。
まぁ、精鋭揃いだからな。
俺とウッドが一番経験がないが……ステラから色々と教わっていることもあるし。
急加速中だが視界はちゃんとしている。
空間の歪みは……うん、それほど大きくないな。
ジャングルにあった歪みと同じくらい、2メートルくらいか。
ステラはすでに石を投げて、星クラゲに攻撃を始めている。
「ぴよ!」(へい、石!)
「えいっ!」
「ぴよよっ!」(はい、つぎっ!)
「そいっ!」
空間の歪みから出てくる、星クラゲが片っ端から撃ち落とされている……。
元々、歪みはそれほど大きくない。
それゆえ星クラゲの出てくる速度も速くはないのだ。
……俺達の出番、ないかもな……。
◇
結局、俺達が急いで到着したときにはすでに戦いは終わっていた。
「悪いな、先にやってもらって……」
「いえいえ、お気になさらず……です!」
ステラはまたもや俺の着ぐるみボディをさわさわしてくる。
隙あらば触ってくるな。まぁ、いいけど……。
地面に広がる空間の歪み。
ナナがそこに着ぐるみ羽を突っ込んでいる。
ちゃぷちゃぷ。
水たまりをかきまわすように、空間の歪みを羽でぐるぐるさせていた。
「やっぱりこの歪みの向こうが本命みたいだね。魔力濃度が高いや」
「のんびりしていると、また向こうから魔物が来るか」
俺の言葉にステラが頷く。さわさわは止めないまま。
「突入ですね……。お任せください!」
「……いや、ここは僕が先に行くよ」
ナナが空間の歪みから、羽を引き抜く。
「この中で多分、一番防御力が高いのは僕だからね」
「ふむ……無茶はしないでな」
「もちろん。引き際は心得ているさ。そうだね、2分後に来て」
ナナはそう言うと、空間の歪みから少し距離を取る。
「よし、勢いをつけて――」
ん? コカトリスがなんだか目を輝かせている。
……これはナナの突入シーンに何か期待してるのか。
さっきも船から飛び込むときに騒いでいた。
変わった飛び込みの仕方をしていたしな……。
「ぴよ」(わくわく)
「ぴよぴ」(どきどき)
……ナナが一瞬、コカトリスに視線を送る。
ついでにウッドやジェシカもわくわくコカトリス達を見ていた。
「ウゴ……期待してる」
「ええ、期待してますわね」
こほんと咳払いをしたステラが、静かに言う。
「どうやらぴよちゃん達は、ある種の運動美を求めているようです」
お読みいただき、ありがとうございます。