445.決戦の朝
ヒールベリーの村。
ナールは置かれたオーブン焼きをふーふーしながら食べている。
「にゃー。つまりウチの実家に、過去の冒険者のメモがあったのにゃ」
「へぇ〜……そういうの、残ってるモノなんすね」
シュガーもグラタンをもぐもぐしながら応じる。
「ザンザスの仕組みが整ったのはステラが来てから……それ以前はマジでヤバかったみたいですし」
「そうみたいにゃね」
ステラが来る前のザンザスは、本当に村レベルの大きさしかなかった。それを安定した探索ができるようにしたのがステラである。
それからザンザスは急激に発展し、大都市になったのだ。
「ブラックムーン商会はあちしのおじいさんからだけど、元の流れはもっと古いにゃ」
「何代も続いているって言ってましたもんね」
「そうにゃ。実家の倉庫を整理してたら出てきたみたいにゃ」
「歴史モノですねぃ……」
シュガーはふふっと微笑む。
「ま、俺で手伝えることがあったらやりやすからね。気軽に言ってくだせぇ」
「ありがとうにゃ……!」
そう言うとナールはオーブン焼きをそっと小皿に取り分ける。
「にゃー……ちょっと交換にゃ」
「いいですぜ!」
オーブン焼きとグラタンを取り分けて交換する。
仲睦まじく二人は夜ご飯を食べるのであった。
◇
港の宿舎。
「んむ……」
つんつん。
頬に指先の感触がある。
これは……ステラか。
俺は小声で彼女に答えた。
「……おはよう」
「おはようです……ふふ」
ステラが俺の顔を覗き込んでいる。
楽しそうだな。
「まだ早いですけれど……今日はなんだか早起きでした」
「そうか……」
俺の胸元にはディアとマルコシアスがいる。
すぴーすぴーとまだ寝ているな。
「ぴよぴよ……」(もっしゃもっしゃ……)
「ぴよ……」(幸せ……)
宿舎の部屋の半分はコカトリスでみっちり埋まっていた。海ぴよには昆布が巻き付いている。
昨日、海藻がお気に入りだったので寝る前に渡しておいたのだ。
そのほうが海の雰囲気が出てよく眠れるかと思ったし。
「食べてるな……」
巻き付いた昆布はかなり減っていた。
どうやら寝ている間に食べていたらしい。
「ぴよぴよ……」(もぐもぐ……)
昆布がコカトリスの口の中に吸い込まれていく。
食べてる。めちゃくちゃ食べてるな。
「ま、まぁ……おやつみたいなものか」
「そうですね、すやすや寝ているようですし」
そこでステラの目がすっと細くなった。
「今日は気合を入れないと……」
「ああ、海底神殿に行かないとだからな」
ふにふに。
ステラの指がまた俺の頬をつんつんする。
「……どうしたんだ?」
「着ぐるみの前に触れておこうかと思って。いえ、もちろん着ぐるみエルちゃんも最高ですが……」
お、おう。
時計を見るとまだ時間はある。
そのまま少し、ステラは俺にスキンシップをしたのであった。
昆布はヘルシーな食材なんだぞ!✧◝(⁰▿⁰)◜✧
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