444.アイキャンフライ
2杯目の激辛ラーメンを完食したステラは、勢いよく器をテーブルに置いた。
「ご馳走さまでした……!」
ぽふぽふぽふ。
マルコシアスが肉球拍手をする。
「凄いんだぞ。汁まで飲み切ったんだぞ」
「久し振りに強烈なのを頂きましたね。でも……味は美味しかったです! 常人にはオススメできませんが」
「『死』だぞ?」
「『死』ですね。ところで、これで特別企画は終わりですか?」
「終わりだぞ」
ごろごろ。
マルコシアスはお腹をびろーんと出しながら答えた。普段よりも無防備マルちゃんスタイルである。
「でも完食記念にお年玉があるんだぞ」
「ほうほう……」
「願いを叶えてあげるんだぞ」
「……」
ステラはちょっと目を細めてマルコシアスを見た。
「……では家族や村の人達に無病息災的な感じで、ひとつ……」
「信じてないんだぞ」
「大きな声では言えませんが、わたしは神様だとかあまり信じていませんし」
「リアリストなんだぞ。でも冒険者はそんな人が多いかもだぞ」
「神に祈る前にやれることを、それが冒険者のモットーですからね」
もちろん、その中には胃腸の強さも含まれる。
サバイバルの多い冒険者にとって、胃腸の強さは生存力にも関わる。
ステラの激辛耐性も極限状況が生み出した鍛錬の賜物なのであった。
「じゃあ、そんな母上のために……ここだけのぴよ真実を大公開なんだぞ!」
「えっ!? そういうのもオッケーなんですか!?」
「だぞだぞ」
「嬉しいですね! どんなぴよ真実が明らかに……!?」
わくわくするステラ。
また空間に扉が現れ、開く。
そこからさっきのアシスタントぴよが入ってくる。
「ぴよっぴよー!」(呼ばれて飛び出て、ぴよっぴよー!)
マルコシアスがすすっとアシスタントぴよの足元へ近寄る。
「実は……コカトリスは天使なんだぞ!」
「ぴよ!」(あたいは天使!)
「なんと! 天使……! 知っていました!」
ステラがのけぞりながら答える。
「ぴよちゃんは天使……! それは世界的にも決定事項ですよね?」
「んん? そーいう意味じゃなくて、本当に神様に作られた天使なんだぞ」
「ぴよ」(天使です)
「……神様に作られた、というならわたしの先祖もそうなのでは?」
「はっ!? ……そう言われると、そうなんだぞ!?」
「ぴよ」(あなたも天使です)
「むしろマルちゃんはそーいう存在じゃないんですよね? 地獄で生まれたとか」
「なんだかエーテル的なモノとマジカル的なモノが地獄でスパークしたっぽいんだぞ」
「そちらの方が珍しくありませんか」
「割合で言えば……そう、極レアなんだぞ!」
マルコシアスは納得したように頷いた。
「でも逆に言えば、ぴよちゃんの不明な由来にひとつの答えがあったわけで……ありがとうございます」
「どういたしましてなんだぞ!」
ルールル……。
謎のBGMが鳴り始める。
「……この音楽は……?」
「そろそろマルちゃんの部屋も終わりなんだぞ」
「そうですか……。なんだか色々と危ない空間の気がしましたが、ちゃんと終われて良かったです」
「フルアクセル人生だぞ。ブレーキなんてないんだぞ」
「いえ、ブレーキは大切にしてください……」
ステラがそう言うと、眠気が襲ってきた。
どうやら本当に時間らしい。
「わふ。では、またの機会なんだぞー」
その声を最後に、ステラの視界は暗転した。
◇
翌朝。
港のウミネコの声でステラの目が覚める。
「んむ……」
ステラは後ろからエルトに抱きついていた。
少し顔をのぞくと、エルトはまだすやすや寝ている。こうしていると本当に可愛い、年相応の少年であった。
ステラのすぐ近くには他の家族も一緒に寝ている。
ディアとマルコシアスはエルトに抱きかかえられていた。
「ぴよー」(すややー)
「ぴよ……」(スヤァ……)
他にも部屋にはみっちりコカトリスがいる。
まだ他には誰も起きていないようだ。
「……妙な夢を見ていたような……」
ステラは軽く頭を振る。夢はまるで思い出せない。
しかしステラはなぜだか、ひとつやるべきことがある気がした。
うん。マルちゃんの爪を切ろう。
多分ちょっと伸びているはずなのだ。
一年始まったんだぞ……!
今年もよろしくなんだぞー!(人*´∀`)。*゜+