442.ナールの実家
ヒールベリーの村。
にゃんにゃん。
にゃんにゃんにゃんー。
ニャフ族達がザンザス行きへの馬車へと荷物を運び込んでいた。冒険者達も作業を手伝っている。
「今日の仕事はこれで終わりですかい?」
「にゃ! これで終わりにゃ」
「順調ですねぃ」
「にゃ……書類仕事は大変にゃけど、溜めないですんでるにゃ。収穫も上々にゃ」
「いいことですぜ……」
うんうんとシュガーが頷く。
「今頃エルト様達は海で討伐にゃ。きっと大変にゃ……」
「本当、仕事熱心ですぜ。海にまで潜りに行くなんて……」
「でも大海原にライガー家の船が集まるのは、見てみたいにゃ。壮観のはずにゃ」
「俺も海はあんまりですからねー。ザンザスのダンジョンでちょっとタッチしたくらいで……」
積み込みは終わったようで、馬車が発進準備に入っていた。ナールが御者へ合図を送る。
今日の仕事はこれで終わりだ。
「にゃ! それってザンザスのダンジョンの第4層にゃ? その話、後でもっと聞きたいにゃー」
ナールの帽子をぽむぽむとシュガーが優しく撫でる。
「もちろん、オッケーですぜ!」
◇
そうして後片付けが終わり、二人は村の居酒屋へとやってきた。
太陽は傾き始めているが、夜にはまだ早い。
しかしヒールベリーの村は夜遅くまで店が開いていることはない。
早寝早起きなのだ。
「……ぴよ」(……すやー)
窓から見る村の広場には、コカトリスが大の字で昼寝している。
すぐそばには看板で『ぴよ、お昼寝中』とあった。
「にゃにゃーん。パズルマッシュルームのたたきとチーズとトマトのオーブン焼きをくださいにゃー」
「俺もパズルマッシュルームのたたきと……あとはカボチャのグラタンで!」
「はいにゃーん」
飲み物はセットで紅茶が出てくる。
それらを二人は口にして、ぷはーと息を吐いた。
「仕事終わりの紅茶は格別にゃー」
「全くですねい……」
一息ついたところで、ナールが身を軽く乗り出す。
「それで海の話にゃ……。ザンザスにも『海』があるにゃ?」
「そうですよ。ダンジョンの第4層が海と氷のエリアですからね」
ニャフ族の店員がパズルマッシュルームのたたきを持ってくる。それをつまみながら、シュガーがしみじみと言う。
「第4層はBランク以上の冒険者じゃないと挑めませんからね。俺もあんまり行ったわけじゃないですが……」
「本もそこから先はあんまり書いてなかったのにゃ」
「書いてもしょうがない、ということでしょーね。挑むのさえ、許可制ですし」
シュガーが肩をすくめる。
「あそこは本当に寒くてね……。色んなところが氷に閉ざされているから、未踏エリアもちょいちょいあるっぽいんですよ」
「にゃ……でも綺麗とか書いてあったにゃ」
「ええ、北の果てに行かないと見られないくらい強烈な銀世界ですからね。……でもそんなのに興味があるんです?」
にゃー……とナールが周囲を見渡す。
「実家から手紙がきたのにゃ」
「実家……あのおやっさんですか」
ナールの父はポーション関係の器具に詳しかった。
特にメンテナンス方面は抜群の腕前だったはずだ。
そのためナールの父は何度かザンザスに呼ばれており、シュガーも面識がある。
「……ブラックムーン商会にちょっと関わることにゃ」
お読みいただき、ありがとうございます。