438.有識者の見解
「ぴよっぴよ……」(普通に降りてきたね……)
「ぴよ……」(ゆっくり来たね……)
コカトリスも戸惑っているようだ。
こんなコカトリス、初めて見た。
「やはり博士の器は……ごくり」
ステラも息を呑む。呑まなくてもいいが。
「しかしあの速度で降りてこられるなら、どうして海に降りたんだ……? 甲板に着地できるだろうに」
「わたしにはわかります……。きっと、ぴよ達とお昼ご飯を食べるためでしょう」
「……お、おう」
そのために海に着水したのか。
と言っても、海ぴよのご飯は海水にどっぷり浸かった海藻類。
昆布とかは食べられるとしても、
「……ぴよぴー?」(……ご飯食べる?)
リーダーぴよが昆布の切れ端を持ってヴィクターに近づく。
「ふむ、頂こう」
「……!」
ヴィクターはぴよ語がわからないはずだ。しかし歴戦のぴよ学者としての経験から、コカトリスの意図を察しているのだろう。
何気なく昆布を受け取ると、ぐもっと羽を口に突っ込む。
「んむんむ……」
草だんごの時と同じく、絵面が危ない。
これが俺の兄か……。
「気合が入っていますね……!」
「……そうだな」
俺はぽむとステラの肩を叩いた。
「俺達もご飯の残りを食べるか……」
◇
昼ご飯が終わり、ヴィクターも交えて現状報告がなされた。
「リヴァイアサンのヌシ、海底神殿、星クラゲの群れか……」
「てんこ盛りってやつだなー」
ルイーゼが空を仰ぐ。
「ちなみにこの辺りに、神殿うんぬんかんぬんの情報はねぇ。使徒や神話の時代までさかのぼってもな」
「それは間違いありません。船乗りにも確認しましたが」
クロウズも補足する。
「謎の古代遺跡というわけか」
「……わたしもそのような話は聞いたことがありませんね……」
ステラの滞在期間は短いが、そのときにも話にはなかったようだ。
隠された神殿、あるいは歴史の闇に消えた……という線はかなり濃厚である。
「つまり……まるっきりわからねぇ。中の構造もな。ナナは何か知ってるか? 古代の魔法具とか詳しいだろ?」
「海はヴァンパイアの管轄外だけどね……。でもこのパターンは……」
「パターン、ですか?」
ステラが目をぱちくりさせる。それにナナが言葉を付け加えた。
「ステラやレイアなら、わかるはずだよ」
「……遥か昔から由来は不明。魔物の巣窟、魔力の結節点として機能している……」
レイアの言葉にステラもはっとする。
「それって、ザンザスですね……!」
「……なるほど、そう繋がるわけか」
確かにザンザスのダンジョンも千年前から存在し、誰が作ったのかはわからない。
そして内側に大量の魔物を内包している。
歴史上、ザンザスのダンジョンからコカトリスの群れが外に出たこともあるらしい。
もちろん近年ではめったにないが……ダンジョンの怖さはここにある。
もしタチの悪い魔物が大量に放出されれば、大きな被害が出るのだ。
「その通りさ。魔物がいるということは、それだけ魔力があるということ。星クラゲの数からして……」
ナナの送る視線に着ぐるみのヴィクターがふもっと答える。
「ダンジョン化している可能性がある。そうなれば、厄介だぞ」
「ザンザスの歴史とコカトリスは切っても切り離せない関係にあると言える。世界中を見渡しても、これほど都市の成り立ちと密接にコカトリスが関わっている地域は他にない」
なるほどなんだぞ✧◝(⁰▿⁰)◜✧
それって、なんでなんだぞ?
「ザンザスが自治都市だというのは聞いたことがあるだろう?」
なんとなーく、聞いてるんだぞ。
「我らの王国では王権は絶対ではない。王家もナーガシュ家より少し大きいくらいだからな」
そんなもんなんだぞ?
「魔物の監視と抑制という観点から、個々の領主の権利が強いのだ。人間の理屈や都合は、魔物には関係ない」
わふわふ……そうかもなんだぞ。
「しかるに、領主の権利の源泉とは何か――? 何が領主を領主たらしめているのか?」
これはわかるんだぞ!
魔力、魔法だぞ!✧◝(⁰▿⁰)◜✧
「その通り。10ぴよポインツあげよう」
ありがとなんだぞ!(。•̀ᴗ-)✧
「領主はその魔力と魔法で統治する民と土地を守る。だが、何事にも不可能は存在する」
……!
コカトリスには魔法が通じないんだぞ✧◝(⁰▿⁰)◜✧
「まさしく。コカトリスには魔法が一切効かない。そもそも傷つけることさえ、非常に難しい」
わふ。魔法が通じないなら、領主の権利もまたいらない……ということなんだぞ?
「そう。大昔は国王(今の王家とは全く関係がない)に任命された領主もいたが……コカトリスがダンジョンからあふれた時に逃げ出してしまった」
あらあらなんだぞ……。
「その騒動をおさめたのが、ふらりと立ち寄ったザンザスという人物だったと言われている」
街の名前なんだぞ。
「そう、それがザンザスの始まりだな。まぁ、これも伝説めいたエピソードだが……」
あれ?
でも母上が活躍した頃は小さな村とか……そんな話だったんだぞ?
「それはまた次回に語ろう。君の母上は、本当に凄い人物なのだ」