423.ガラス細工
「ちょっとまだ冷たいが……気持ちいいな。ヒールベリーの村とは全然違う風だ」
「ふふっ、そうですね……」
通りをいくつか越えると、ぐっと人が減った。
ここは屋台も飲み屋らしき店もない。所々、まだ営業している店はあるが。
軒先をふっと見ると……食べ物ではないな。日用品やアクセサリーの店か。
港では漁で昼夜逆転生活をしている人もそこそこいると聞く。
きっとそういう人達向けのお店なんだろう。
と、目の前の店から人が出てきた。
「あっあー! いいです、これ! 大切にします!」
「それは良かった」
……レイアとナナだ。ナナは夜だから珍しく着ぐるみ姿じゃない。
突然、その二人とばったりと鉢合わせした。
「「あっ」」
向こうも不意打ちだったのか、声を上げて固まった。
「二人もお出かけか……?」
「ええ、はい! ちょっと今後の商売の参考として……」
「コカトリスグッズを買いに来たんだよ」
「な、なるほど……」
ブレないな。
「ちなみに……今、いいと言っていたのは?」
ずいっとステラが話に食い付く。
「そう……! これです!」
コカトリスの話を振られたら、レイアが答えないわけはなかった。
レイアは手を開けて、ソレを見せてくれる。
「……小さなガラス細工か」
暗がりの中だが、すぐにわかった。
黄色のガラスで作られた、小さなコカトリスのガラス細工だ。
かなり小さいな。手のひらで握り込めそうだ。
「ほうほう、ぴよっとしてますねぇ……。丸みを帯びているのがグッドです」
「ここで作ってるわけじゃないけどね。南の国の輸入品だって」
「へぇ、確かにこういうガラス細工はあまり見ないな……」
俺の言葉にナナがあごへ手をやる。
「繊細なガラス細工は輸送の途中で壊れるからね。ちゃんと運べる技術がないと店先に並べるのも一苦労かも」
「それもそうか。物流のルイーゼ家のアドバンテージだな」
それから少し話をして、レイアとナナは大通りへと歩いて行った。これからトマト料理を食べに行くらしい。
ステラがやや目を細めている。
これは……さっきのコカトリスガラス細工が欲しそうな顔だ。
「…………」
「入ろうか、この店に」
「いいのですか……?」
「うん、俺も興味があるし」
そう言って、俺はステラと一緒に店に入る。
「いらっしゃいですニャ!」
店にはニャフ族の店主と店員数人がいた。お客は他にいないようだな。
「はぁ〜〜……」
店に入った瞬間、ステラがふにゃっと微笑む。
出入り口の一番目立つところにコカトリスのガラス細工コーナーがあるのだ。
手書きのポップも置いてある。
「海コカトリスの魅力を、ぜひお手元に!」
らしい。
ふと目線を奥にやると、ここ以外は様々なガラス工芸品が置いてあるようだ。コップやグラス、花瓶などなど。
他にも犬や猫、ライオンなんかのガラス細工もあるな。
「ちょっと見てもいいでしょうか?!」
「ああ、もちろん」
しかし……確かによく出来ているな。
つぶらな瞳に、つるっとした体。黄色はうまくコカトリス色を出している。
相当な出来栄えなのは間違いない……。
ステラも子どものように目を輝かせている。
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