405.草だんごと海ぴよ
「ふむふむ……」
ヴィクターがくちばし部分から羽を引っこ抜く。
もぐもぐ、ごっくん。
どうやらちゃんと食べられたらしい。
「うん、おいしい……! ぴよ好みの味だ」
「……わかるのか?」
「コカトリスの食べる植物は一通り食べた。甘いのが好みなんだ……。サボテンも意外と甘みがある」
この場にあったらサボテンステーキを作りかねない口調でヴィクターが言う。
「そろそろ岩場が近付いてきたな。用意してくれ」
ルイーゼが腕をくるくる回すと、小船が散開する。
これでこの船が岩場に最も近くなった。
「ぴっぴよ! 出番ぴよね!」
「ここはわたしが連れていきましょう……!」
「頑張ってだぞ!」
ステラがずいっと前に出る。そうだな、俺もついていくか。
「草だんごを貰ってもいいか?」
「どうぞです!」
ララトマから十数個の草だんごを受け取り、お腹のポケットに入れる。
マジカルなポケットなので綺麗である。ヴァンパイアにとってはトマト入れらしいが。
「では、行きましょうか。わたしに掴まってください……!」
「らじゃーぴよ!」
「頼んだぞ」
さすがにこの場でルイーゼに掴まるのもアレだしな。
目指す岩場はもう目の前だ。
確かにコカトリス7匹が波に揺られたり、岩場で寝てたりしている。
ヒールベリーのコカトリスとは見た目は変わらないな。ふわもっこなヒヨコである。
何匹かは船を見ているが、それだけだな。これだけの船が近付いても我関せずの姿勢だ。
トンッ……!
俺とディアを抱えたステラが甲板を蹴って空に飛び出した。
そのままコカトリスの前に広がる海に着地する。
そう、着地だ。
波のすぐ上に浮かぶ、湖で見せたあの技術である。
俺も要領を思い出し、ステラから離れて波の上に立つ。魔力を通すこの着ぐるみなら、ちゃんと海の上は歩けるな。
「……あれは魔法か? まぁいい。俺達も行くぞ」
「あいよー!」
ヴィクターとルイーゼはすすーっと風魔法で空を飛んでくる。スマートな移動法だ。
着ぐるみが飛ぶのは、いささかシュールだけど。
「ぴよ! おはぴよよ!」
ステラの胸元に収まっているディアが元気よく挨拶する。
「……ぴよ?」
岩場でキリッとした目つきのコカトリスが首を傾げる。
このコカトリスがリーダー……かな?
しっかり者の雰囲気がある。
「ぴよよ!」
「おはよう、と言ってるぴよ!」
「意思疎通は可能なようですね、エルちゃん」
「そうだな。あとは草だんごに興味を持ってくれるか……」
俺はお腹のポケットから草だんごをいくつか取り出した。コカトリスの目線に合わせて草だんごを掲げる。
「ぴよよ!」
それを見たコカトリスがきらんと目を光らせる。
「……じゅるり」
さらにヒールベリーのコカトリスが後ろから見つめてくる気配を感じる。後で余ったらあげるから……。
「……興味は持ってくれそうだな」
ところで本編でコカトリスの食用植物を食べてたってあるけど、それは大丈夫なんだぞ?
「一般人がやったら死ぬ」
やっぱりなんだぞ。なんでぴよ博士は大丈夫なんだぞ?
「俺は魔力があるから、魔力豊富な植物でも少量なら問題ない。コカトリスも体内の強大な魔力でクリアしている」
なるほどなんだぞ!
「コカトリスも柔らかくて味がまともな植物を好む。我々が食べるような植物だな。花の蜜を好む群れやココナッツ食べまくりの群れはよく見られる。化石樹の葉もクッキーみたいだろう?」
そーいえばそうなんだぞ。
ススキみたいのは食べないんだぞ?
「ザンザスのダンジョンでも、何でもかんでも口にはしていない。そう、コカトリスは意外とグルメな生き物といえるだろうな」