403.ヴィクターの計算
「あそこにいるコカトリス達のことか……?」
ヴィクターがやってきた方角を指差す。
黄色の点は少しだけ大きく見える。ちょっとずつだが近づいているようだ。
「そうだ。あのコカトリス達はここら辺に住んでいるコカトリスではない。元々、もっと港から外れた南岸の小島に住んでいたはずだ」
「なるほど……」
「……もしかして、住処から追い出されたんですか?」
ステラが剣呑な目つきで海を見ながら言った。
ヴィクターが右の手をパタパタさせる。コカトリスっぽい動作だ。
着ぐるみ生活の長さを思い起こさせる。
「推測でしかないが。多分、リヴァイアサンの到来によってご飯を失ったんだろう。ここらの漁獲は下がっているよな?」
「まぁ、その通りだ。リヴァイアサンが喰っちまうし」
ルイーゼが肩をすくめながら答える。
「…………」
ステラの目が怖い。
レイアとディア、マルコシアスは甲板際でぴよわふしてる。こちらの話には加わってきていない。
「……ステラ、どうどう」
「はっ! すみません、ちょっと自分の世界に入っていました」
「それは構わないが……」
「わかっています。コカトリスを助けるにはリヴァイアサン問題を解決すれば良いのです。その決意が新たになっただけのこと……!」
どうやらコカトリスが関わったことでステラにさらなる闘志が宿ったらしい。
……俺もコカトリスが困っていると聞くと、なんとかしてやりたくなる。
ふと見ると、甲板ではコカトリスが体操をしていた。
「ぴよー!」(のびろー!)
「ぴよよー!」(のびるー!)
お互いに背を向き合いながら、羽を伸ばして体を引っ張り合っていた。
羽と胸が伸びてるな……。
「ぴよよー!」(泳ぎのためにー!)
「ぴよっぴよ〜!」(ストレッチ! ストレッチー!)
視線を戻して俺はヴィクターに聞いた。
「コカトリス達は大丈夫なのか?」
「多少痩せているが、大丈夫だ。コカトリスは頑丈な生き物だしな。絶食しても数カ月は生きられる……」
「そんなに……!? 初耳です!」
ふむ、とヴィクターが手をパタパタさせる。
癖なのか?
悔しいがかなりかわいい動作である。
あざとかわいい。
「ザンザスのダンジョンでは食料が底をつくことはないからな。自然界ではままある。北国のコカトリスも、降雪期は食料となる植物は当然減る」
「……そうですね。言われてみれば」
「砂漠コカトリスはもっと過酷だ。オアシスからオアシスを転々とする……。しかしそれでもめげることなく生きている」
「奥が深いな……」
「ぴよ博士はマジモンの学者だからな!」
ルイーゼがえへんと胸を張る。
「早く解決するに越したことはない。それがコカトリスのためでもある。ところで――」
ぽよぽよとヴィクターが俺に近寄る。
足音がかわいい……。明らかに特殊な素材が足裏に使われている。
ヴィクターがレイアのほうを羽で指し示した。
「……向こうにいるのが、コカトリスクイーンか」
「ああ、そうだが……?」
この事自体は隠す理由はない。
村に来れば、誰でも知っているし。
「もしかして、ぴよ言葉を翻訳できるのか」
「……そう――」
だ。と言う前にヴィクターがずいっと顔を近付けてた。コカトリスの着ぐるみヘッドが視界いっぱいに広がる。
「あの子については、百万時間があっても足りないから要点だけを言う。向こうの岩場にいるコカトリスは、リヴァイアサンの群れの行方を知っているはずだ。仲立ちしてほしい」
「おはよう、諸君。ぴよ博士だよ。今日はコカトリスについて学ぼう」
……( ╹▽╹ )
この後書き空間に侵入者なんだぞ!?
「マルコシアス君、君は書籍1巻の後書きで私の著作を引用した。私を引き寄せたのは、むしろ君のほうなのだ」
マジなんだぞ!?
「マジだとも。本編中に私の言いたいことを続けると時間が足りない。ゆえにこれから少しの期間、私もこの空間に存在することになる」
お勉強の時間なんだぞ?!
「その通り。でも君も主の種族のことを知りたいだろう?」
くっ……できるやつなんだぞ。
「褒め言葉として受け取っておこう。さ、コカトリス学の特別講座と行こうじゃないか」
そんなのがあるんだぞ?
「今、私が作っているんだ。いずれ世界中に広まる。これはそのプレ授業というわけだ」
……。
ラジャーなんだぞ✧◝(⁰▿⁰)◜☆