402.!?
「ぴよ博士……北の国にいたという、コカトリス学の権威か」
「そうです。こちらにおられてたんですね」
「あのぴよはそう言えば、飛んでたんだぞ。魔法でだけど」
「ぴよ……羽じゃないぴよか」
「さすがにそれは無理なんだぞ」
すすーっとぴよ博士がこの船団に飛んでくる。
確かに……近付いてくるとわかるが、周囲に風のバリアのようなものがあるな。
ルイーゼと同じ、風の魔法だ。
「どこで降りるんだろうな。やはり旗艦かな」
「そうですね……。あのときも魔物退治に協力してくれましたが、今回もやはりそうなのでしょうか」
「いいぴよだな……」
ステラから前に聞いた事柄からすると、ちょっとマッドサイエンティストぽいが。
後で挨拶くらいはしておくか。
そんな風に思っていると、ぴよ博士はこの船の上空で停まった。
「……停まったな」
「ウゴ、この船に降りてくる?」
ウッドがそう言った瞬間、ぴよ博士がストンとこの船の甲板に降りてきた。
「おはよう、諸君。ぴよ博士だよ」
「…………」
ぴこぴこぴこ。ぴよ博士が小刻みにふもふも羽をパタパタさせながら言った。
「えっ……?!」
この声、まさかヴィクター!?
俺はかろうじて声を抑え込んだ。
間違いない。多少記憶より年を取っているが、俺の兄であるヴィクターの声だ。
周囲も突然の着ぐるみにびっくりしている。クロウズだけはなんだか、遠い目をしているが。
ススーッ。
ヴィクター(仮)の着ぐるみが滑るように俺の側にやってくる。
「!?」
「……着ぐるみの中身は詮索してはいけない。中の人などいないのだ」
「そ、そうだな」
「うむ。わかっていればいい。……良い着ぐるみだ。感心したぞ」
絶対に間違いない。この着ぐるみの中身はヴィクターだ。
ヴィクターは長兄で早くに家を出ていた。
寄宿制の貴族学院で学んでいたから、まともに話すのは何年ぶりだろうか。
でもこの心地良い低めの声は、ヴィクターだ。
……なぜ着ぐるみ姿でここにいるんだ?
「よっすー! 博士も来たんだな!」
俺とヴィクターが話している間に、ルイーゼも甲板に降り立っていた。
「おはよう、ルイーゼ。義によりて参陣した」
「ああ! 助かるぜ!」
ルイーゼがぴよ博士の背中をバンバン叩く。
それだけで色々なことが見えてきた。ルイーゼとヴィクターは顔馴染みか。
それもかなり気安い間柄のようだ。
ヴィクターが参加するのも、前もって決まっていたことのようだな……。
教えてくれればいいのにと思ったが、ヴィクターが口止めしてたのかもしれない。
名乗りも呼ばれ方もぴよ博士だしな。
ヴィクターの名前はここでは出すな、ということだろう。
俺も一介の着ぐるみエルちゃんなので仕方ない。
「さぁ、仕事に戻った戻った! 歴戦の魔法使いが無償で援軍に来てくれたんだぞ。感謝しながら仕事に戻れ!」
「「お、おう!!!」」
船乗りはルイーゼの一言で動き出し、仕事に戻っていく。
ヴィクターも俺と同じ、何らかの事情があって着ぐるみで参戦したのか。
わからん。
着ぐるみのつぶらな瞳とふっくら体型しかわからん……。
「ぴよー。あなたがぴよ博士ぴよね!」
「……そうだよ。はじめましてと久し振りだ。謎のわんちゃん」
「久し振りなんだぞ」
マルコシアスはそう記憶してるのか。
まぁ、なにも間違ってないが。
「ぴよ。向こうでなにしてたぴよ?」
むっ、ディアが重要なことを聞いてくれた。
そうだ。ヴィクターはなぜあそこにいたんだ。
ヴィクターがきっぱりと言い切る。
「お腹が空いてるかもだったので、ご飯をあげていたんだ」
……お、おう。
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