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397.窓の外からこんばんは

 宴のあと。

 自室で天日干しのイカをかじるルイーゼ。

 酒には弱いがつまみは好きなルイーゼのひそかな趣味であった。


「ルイーゼ様……」


 訪れたクロウズは疲れた顔をしている。


「本当にあの方々をお使いに?」

「んー? 不満か」

「……複雑です。確かに魔力はお持ちのようでしたが」


 クロウズは元騎士である。

 相対する者の魔力を探るのは得意だ。

 それでもステラはよく隠蔽しており、エルトもステルス機能がついているので分かりづらい。

 それでも魔力を持っているのはわかる。魔法を使えるのは間違いない。


 しかし戦力になるかどうかは別問題だ。


「ナナがいればお釣りは来るだろ。足手まといになりそうなら港に置いておけばいい」

「ナナ様は確かに……」


 クロウズがぶるりと震える。

 自分の知る中で、最強の者は誰か――? そう問われれば、クロウズは間違いなくナナの名前をあげるだろう。


 洗練された魔力、様々な戦闘用魔法具、経験に裏打ちされた知識。どれを取っても一流と呼ぶのにふさわしい。


「ま、明日にはわかるだろうし。魔法が使えるなら、そんなに足手まといには――んん?」


 イカを裂く手を止めて、ルイーゼが窓を見る。

 つられてクロウズも窓を見て、思わず声を上げる。


「うあっ?!」

「……こんばんは」


 窓の外にコカトリスの着ぐるみが浮かんでいた。

 ヴィクターである。


 その姿を見て、ルイーゼはばんと立ち上がる。


「ヴィクターの兄貴じゃん!」

「窓を開けてくれ」

「おうよ! 今開けるぜー」


 ルイーゼは何の疑問もなく窓を開けた。


「ヴィクター様……。さようなことをいつまでもされては、いくらなんでも困りますぞ……!」


 気を取り直したクロウズがさすがに苦言を呈する。


 ぬぬっと着ぐるみの頭を窓に突っ込んだヴィクターはひらひらと手を振った。


「許せ、すぐ帰る」

「さような問題では……」

「まぁまぁ、ヴィクターの兄貴がこうなのは昔からだろ」

「お嬢様も真似られるから、困るのです!」


 憮然としてクロウズが言い放つ。

 風の魔法を操って窓から侵入は元々、ヴィクターのやり口だった。

 せっかちなルイーゼはそれを真似たのだ。


「いいじゃねぇか。今回、無償でヴィクターの兄貴も手伝ってくれるらしいし」

「ぴよ博士としてだがな。ヴィクターは学会の研究で忙しい設定だ」

「また無茶苦茶を……ありがたい話ではありますが。……どうされました?」


 クロウズは不思議に思った。

 窓を開けたのに、ヴィクターはいつまでも部屋に入ってこないのだ。

 このままでは通報されてしまう。


 ガタガタと窓枠が揺れるが、着ぐるみの頭が入っていかない。


 クロウズがぽかんと口を開けて、


「まさか……」

「兄貴、もしかしてつっかえた?」

「……ふむ。物理的に無理だな。窓がやや小さい」


 ヴィクターはぎゅむっと窓から頭を外す。

 理系人間ゆえ、こうした諦めは早い。


「また明日来る」

「あっ、そういえば兄貴の弟の――」

「知ってる」


 それだけ言うと、ヴィクターは風を操ってキラッと空を飛んでいった。

 ルイーゼの全速力より遥かに速い。


 あっという間に消えていったヴィクターにクロウズはため息をつく。


「何しに来たんですか、ヴィクター様は?」

「挨拶だろ、多分」

「多分ですか……」


 クロウズがもごもごと口ごもる。


 窓からはもうヴィクターぴよの姿は見えない。


「あたしに聞くなよ。兄貴はスゲーけど、スゴすぎて何考えてるかわからねーんだからさ」


 窓を閉めて、ルイーゼが続ける。


「まぁ……多分、あの着ぐるみを着てるからコカトリスのことだろ……きっと」

収納魔法って……大切!✧◝(⁰▿⁰)◜✧


お読みいただき、ありがとうございます。

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