394.スティーブンさんは隠れたい
「この港は元々、とても魔物が多いところでした」
クロウズがしみじみと語り始める。
「ぴよ」
「ぴよよ」
コカトリスも興味を引かれてたのか、すすっとこちらに寄ってくる。
レイアを挟んだままだが。
「……?!」
クロウズがちょっと目を見開くが、俺はそれをふもっとハンドで制する。
「気にしないでくれ」
「は、はぁ……」
「ぴよちゃんもお勉強したいみたいです!」
「ウゴウゴ、いいこと!」
ララトマがコカトリスの隣で解説役になる。
これで翻訳もばっちりだ。
「……なんだか凄い光景ですわ」
「ジェシカ、ぴよに身を委ねるのです。このふわもっこ……あなたも体験しますか? 潮風を顔に浴びながら体験するのも『オツ』なものですよ?」
「ま、また今度でいいですわ」
レイアがジェシカをぴよ道に引きずりこもうとしていた。
目をぱちくりさせたクロウズがこほん、と咳払いする。
「この国の戦乱期、百数十年前にライガー家は物流に力を入れていました。我ら船乗りは……数十年、ライガー家と共に海を切り開いたのです」
「大変な歴史ですね……」
ステラがうんうんと頷く。
俺は来る前に読んだ本を思い出しながら、
「元々、ライガー家は馬や船に強かったとか?」
「どちらも熟練の技術を要しますからね。この港の最初期はそれはリヴァイアサンも多く、あらゆる航海が命懸けでした……」
俺達はいつの間にか、広場に出ていた。中央にちょっとした小庭と噴水がある。
人が多いせいで、全容はわからないが。
「ちょうどよいところに。我らの歴史の一つがあの銅像です」
その噴水には銅像がひとつあった。
ふむ……うまく話のタイミングを合わせてたんだな。手慣れている。
「……?!」
ステラがわずかにぎょっとした。
多分、家族でないと気付けないレベルで。
クロウズが誇らしげに、
「公的に市庁舎が建てられたのは、百年ほど前。しかし波止場としての歴史はもっと遥かに古いのです。あの銅像はそのときに尽力された人物の銅像です……!」
拳を掲げた、旅装の銅像。
きりっとした顔立ちだが……やや没個性的な顔だな。これは顔までは歴史に残ってなかったな……。
そんなことを感じさせる。
胸元のブローチのほうが遥かに個性的だ。
ん?
銅像のブローチ……?
「んん……?」
と、俺が喋ろうとするのをステラが素早くインターセプトする。
着ぐるみの口をさっと手で制されたのだ。
クロウズはちょうど銅像を向いているので気が付かない。
「あれこそが、数多のリヴァイアサンを撃退したと伝わる……スティーブン像です。名前以外の経歴はもはや歴史の果てに消えてしまいましたが。後年、伝承を元にあの像を建てたのです」
「へ、へぇ……!」
ステラの声が震えている。もう着ぐるみの口元から手は離れていた。
「スティーブンさん、だぞ?」
「ぴよ……もしかして、ぴよ」
ディアとマルコシアスが小声で言い合う。
このステラの仕草と服装を見て、俺は気が付いた。
銅像のブローチとステラの胸元のブローチ……似てない?
というか、スティーブン……?
俺もなにか前に聞いたな、その名前……!
もちろん母上はスティーブンさんのことは、あまり自分から語らないんだぞ✧◝(⁰▿⁰)◜✧
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