392.秘密のおかわり
だんだんと視界の先がエメラルドグリーンになってくる。
海だ。
鮮やかなエメラルドグリーンの海がいっぱいに広がっている。
太陽も傾き、夕陽へなりかけていた。
ついに海へと到着したんだ。
「ウゴウゴ、すっごーい……!」
「へへん。この辺りは観光地やリゾートとしても価値が高いからな……!」
ルイーゼの顔は見えないが、ドヤ顔してるのはわかる。
海の手前にはレンガ造りの大きな街がある。
帆船もたくさん停泊しているな。
「あれが目的の港か?」
「そうさ、街の手前で降りるぞ」
うーむ……。
ザンザスのほうがひと目見て大きい。
これくらい船がいても、か。
「すやー……ぴよー……ぴよっ!」
「ぴよよっ!」
「どうやらぴよちゃんが目覚めたようですね」
ぎゅむっとした後ろを振り返ると、コカトリスは目をぱちぱちさせている。
「ぴよ……ぴよよー!」(あっ……海だー!)
「ぴよー!」(きれー!)
コカトリスが海を見て興奮してる。
「ウゴ、喜んでる!」
ウッドも嬉しそうだな。
そう言えば、ディアも海を見るのは初めてだ。
ララトマもだな。
後で感想を聞いてみよう。
◇
一方、ステラグループ。
「ぴよよーー!! すっごぴよー!」
ディアはエメラルドグリーンの海に瞳をキラキラさせていた。
「これ全部、お水ぴよ!?」
「お水なんだぞ」
「きれーぴよ! すごぴよよー!」
ララトマはどちらかというと、放心状態で海を見ていた。
「はわ〜……こんなに水が……。あるところにはあるのです」
「塩水だけどね」
ステラに背負われたナナが答えた。
「んむ。お野菜や果物にはあまり良くはないですか……でもすごい量です!」
「すごい量ぴよ!」
目指す着地点は街の手前の空き地にある。
わざわざこのために切り開いたとルイーゼは言っていた。
目立たせるために黄色いテントもあるらしい。
「あっ、あそこですね」
「そうだね。黄色いテントもばっちりある」
まだ夕方前。
全てがゆっくりと茜色に染まりつつある。
その中でも黄色のテントははっきり見えていた。
「よいせっと」
ステラは空中で姿勢を制御して、着地点に降り立つ。
すちゃ……!
軽い音だが、高層ビルの上から着地したようなものである。しかしステラは平気なのだ。
「到着です……!」
「お疲れ様なんだぞ」
「いえいえ、マルちゃんとナナこそお疲れ様でした!」
ステラはナナを降ろして、マルちゃんのあごの下をわしゃわしゃする。
「お疲れ様ぴよよー! あたしもわしゃわしゃするぴよ!」
「わふー、ありがとなんだぞ!」
降りたナナは後方を見る。
「もうすぐ着きますです……?」
ララトマの視力ではエルちゃん達は全然見えない。
少し不安そうだ。
「うん、すぐ来るよ」
「……ほっ……」
着地してほこりを払うと、黄色いテントから人が出てきた。
筋骨隆々で日焼けしている。
いかにも歴戦の船乗りといった風情だ。
ライガー家の重臣、クロウズである。
他に数人を引き連れて、堂々とステラ達に近寄っていく。
「お待ちしておりました」
「クロウズ、久し振りだね」
「お久し振りでございます、ナナ様」
「様はいいって」
「そうはいきますまい。ルイーゼお嬢様のご学友なのですから……」
その様子をディアとマルコシアスはじっと見ている。
「ぴよ。お迎えのひとぴよね」
「デキる雰囲気なんだぞ」
そうしてクロウズはステラ達に改めて向き直る。
「ご足労頂き、ありがとうございます。あなたがたが……?」
「ヒールべリーの村のステラです」
「お噂はうかがっております」
だが言葉とは裏腹に、ステラはクロウズの視線からは疑いが感じ取れた。
本当に役に立つのか、ハッタリではないか……。
クロウズの後ろに控える従者は、さらにその気配が強い。
もっともこれは長年の経験上のもので、ステラ以外は気が付かない程度だろう。
不敬や失礼というほどでもない。
続いて、ルイーゼ達もふよーっと空き地に降り立つ。
こちらは魔法でスムーズな着地である。
「ぴよ!」(着いた!)
「ぴよよ!」(潮の香りだ!)
コカトリスのテンションはまだ高い。
ぴよぴよ鳴きまくっている。
それに対して、クロウズは――。
「コ、コカトリス!? ルイーゼ様、これは……!?」
飛び上がらんばかりに驚いていた。
「あー、すまん。事前に言ったら反対されると思ったからな。コカトリス二体は追加だ」
「追加!? コカトリスを!?」
コカトリスが羽をぱたぱたさせる。
クロウズは唖然としていた。後ろの従者はちょっとビビって下がり気味である。
「「ぴよよー」」(よろしくねー!)
……エルちゃんは内心思った。
(言ってなかったのか……)
でもルイーゼを責める気にはならなかったのである。
ぴよ、おかわりでだぞ!✧◝(⁰▿⁰)◜✧
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