391.港へ
そう、俺はこの着ぐるみを着ている間、あざとかわいいぴよのエルちゃんである。
設定はステラとナナが考えた。
豪華Sランク冒険者の発案である。俺が異を挟む余地はない。
「……熱いものにストローは危険じゃないか?」
「そう? まぁ、このストローはマジカルにちょっと冷やしてくれるけど」
ナナはちゅるちゅるとストローでスープを飲み始めた。
ふむ、トマトジュースを飲むのと変わりないように見える。
「ちゃんと飲めてるんだぞ」
「ぴよ! さすがぴよねー!」
「んむ、トマト味がよく出てるね。体に染みるよ……」
そうか、マジカルに冷やしてくれるのか。
魔法って便利だな……。
そんなことを思いながら、俺はストローをスープボウルに差して、着ぐるみの口を近づける。
「信頼してるぞ、ナナ……」
「ウゴ、行くんだ……!」
「勇気がありますですわ」
この着ぐるみについては、大いに信頼している。
というより驚かされっぱなしだ。
大丈夫。潜水よりは安全なはずだ……。
ちゅるちゅる。
俺は軽く魔力を流してスープをすする。
濃厚な酸味と細かい野菜のかけら――ほどよい温かさが喉を潤す。
ミネストローネみたいな感じだな。
「おいしい……ちゃんと飲めるぞ」
「でしょ? でも魔力は切らさないでね」
ナナがぴっとふもふもハンドを上げる。
「死ねるから」
◇
後片付けをして、俺達は山を後にする。
ルイーゼは草だんごが気に入ったようで、何個ももらっては食べていたな。
良いことだと思う。
「……ぴよ」(……少しスープを飲みました)
「ぴよっぴ……!」(最善の自重はしました……!)
「ぴよっぴー」(できてる、我慢できてるー)
コカトリスが自分のお腹をもみもみしている。
「なんだ、あれは?」
「お腹のたぷたぷ具合を確認しているのです。自ら健康管理する賢い天使なので……!」
解説をしたのはレイアだな。
「ふーん、やっぱり不思議な生き物だよなぁ……。ま、いっか。そろそろ行くぞー」
ステラ達も飛び立つ準備をしている。
「では、次は現地で!」
「わかった。気を付けてな」
「海が呼んでるぴよよー!」
ステラが飛び上がり、ばびゅーんと赤い光になって空を駆けていく。
「んじゃ、あたし達も行くぞー!」
またコカトリスみっちりになって、俺達も出発する時間だ。
一応、夕方前には目的地に到着するはずである。
「……ぴよ」(……眠いかも)
「ぴよっぴ……!」(食べると眠くなる、これ真理……!)
コカトリスの目つきが怪しい。
「ウッド、悪いが……」
「ウゴウゴ、この子達は任せて!」
ウッドが腕を広げて、自分に寄りかかるようにする。
そんな感じで再び俺達は空を飛ぶ。
小さな山をいくつか越えると、風が少し変わった気がする。
潮の匂いがかすかに混ざっているのがわかるのだ。
視線の先には蛇行する大河も見える。
事前に確認した地図では、あの大河の終わりが目指すところのはずである。
「もう半分は過ぎたなぁ」
ルイーゼがこちらの反応を確かめるように言う。
「河が目印だな」
望遠鏡機能で見ると、河の上にはいくつもの船が行き来している。
「そう。あの河に浮かんでる船の半分は、うちらライガー家のモンだ」
「大したものだな」
率直にそう思う。
ぐんぐん河に近づくにつれて、さらに船は多く見えるようになってくる。
「……そんなうちらでさえ、今回は手を焼いてるんだ。うっかり大怪我とかやめてくれよ」
「わかってる」
俺はぐっともふもふハンドを握る。
「足手まといにはならないさ」
着ぐるみで頭にリボンはついているけどな……!
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