385.ボートの上から
エルトは水面を少し泳ぐと、再び潜っていった。
「ぴよー!」(行ってくる!)
「いってらぴよよー」
「ご安全にだぞー」
ディアとマルコシアスはボートの上から羽と脚を振って見送る。
水の透明度は高く、深く潜っていないため家族の様子が上からもよく見えた。
「かあさまはすっごいぴよ! すいすいーぴよね」
「母上は泳ぎも得意なんだぞ」
「なんでも出来るかあさまぴよよ!」
ステラは手と足をしならせて魚のようにくるくる泳いでいた。
マルコシアスがふんふんと頷きながら、
「マーマンみたいなんだぞ」
「マーマンって海にいる人間さんぴよ? 本で見たぴよね」
ヒレを持つ人間種、それがマーマンである。
男女ともに合わせてこの呼び名なのだ。
「にゃーん。寒さと水に強い種族にゃん。北部にもけっこういましたにゃん」
ブラウンは釣り竿に仕掛けをくくりつけながら言った。沈めて貝を呼び寄せるのである。
「凍った湖も平気にゃし、きっと皆が行く海にもいますにゃん」
「なるぴよね。この村には一人もいないぴよ」
「マーマンの数はそんなに多くないとか書いてあったぞ」
「乾燥はダメみたいにゃし……生活圏に制約があるにゃん」
「なるほどなんだぞ」
マルコシアスの視線の先では、ウッドが力強く泳いでいた。
「お兄ちゃんも泳いでるぴよ! ……どうぴよ?」
「泳げてるように見えるんだぞ」
身体能力と運動センスは高いウッドである。
着実に泳ぎを習得しつつあるようだった。
「とうさまは……いきてるぴよ? 目は光ってないぴよよね?」
「さりげにひどいにゃん」
「ぴよっ! 水はヤバぴよよ……!」
ディアの記憶にはコカトリス帽子ぽちゃり事件が残っていた。
「大丈夫そうなんだぞ」
「目が光らないか、見守るぴよよ」
「わふ……父上もすいすい泳いでるんだぞ」
魔力で羽と脚が泳ぐのに適切な機能を持つ。
エルトもぴよぴよと水中を進んでいた。
「よかったぴよ。惨劇は避けられたぴよ」
「あっ、魔法も使ってるんだぞ」
エルトの手のひらから緑色の光が放たれる。
植物魔法を使うと出る光だ。
「……見えないんだぞ」
「手にトマトを持ってるぴよ」
「水中でも普通にお野菜は出来るのにゃん?」
「どうやらそうみたいなんだぞ」
「さすが魔法にゃん……」
次にエルトは水中で【大樹の腕】を発動させる。
大きな木造の腕が湖底から生み出され、ぐわんと動いた。
「魔法もイケそうなんだぞ」
「じゃあ、大丈夫ぴよね。一安心ぴよよ!」
「……ちょっと着ぐるみがふっくらしてるのはなぜにゃん……?」
「魔力を使うと空気がなんとかって言ってたぞ」
「そのほうが動きやすいみたいぴよ」
今、エルトの着ぐるみはちょっとふっくらしている。
ヴィクターとナナの着ぐるみにもある高級機能であった。
「にゃー……奥が深いですにゃん」
「たぷたぷしてるぴよだけど、これはこれでかわいいぴよね」
「母上と同じ感想なんだぞ」
「ぴよ! かんせーが同じぴよね!」
マルコシアスは思った。
体はふっくらして、羽は少しすっとしてる。
「家でのテストだと、潜水モードはよちよち歩きになってたんだぞ」
マルコシアスは思った。
ペンギンに似ていたなぁ……と。
ペンギンらいくな潜水モード✧◝(⁰▿⁰)◜✧
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