384.こだわりの逸品着ぐるみ
「じゃあ、行ってくる」
「ウゴ、俺も泳ぐ!」
今回の目的は俺とウッドの泳ぎだ。
さらには潜るのも試さないとな。
とはいえウッドは塩水も大丈夫だし、呼吸も普通の人間とは違う。
ステラテスト(水に顔をつける耐久テスト)もばっちりだ。あと学ぶべきは水中の動きくらいだろう。
俺のような着ぐるみダイバー初心者ではないのだ……。
「ぴよ! あたしらはボートから見守ってるぴよ!」
「健闘を祈るんだぞ!」
ディア達はブラウンのボートに乗っている。
「にゃー……くれぐれもご安全にですにゃん」
「ああ、気を付けるよ」
ステラが俺の隣に立つ。
彼女も水に濡れていい服――軽装の潜水服だ。
ちょっとだけもこっとコカトリスをイメージしている。
「では参りましょうか……!」
「……そうだな」
魔力をちょっと流して潜水モードへ。
背中に仕込んである魔法具が水中の酸素を取り込んでくれる。
「ぴよー……ぴよー……」
なぜか呼吸音もぴよになる。
ナナ、レイアいわくこだわりの機能らしいが。
何も言うまい。
ちゃんと泳げれば問題ないし。
すすっと湖の側に立ち、ゆっくりと足から入っていく。
「ぴっぴよー……」(おっ、冷たくない……)
防寒も完璧に機能している。
「ウゴ、俺も行くよ〜」
「行きましょう!」
ウッドとステラも俺に続いて湖へ入っていく。
ざぶざぶ……。
「ウゴ、冷たさは感じないね」
「さすがウッドですね。熱さや寒さも大丈夫とは」
「ウゴ……かあさんは大丈夫?」
「ええ、全く問題ありません……!」
だんだんと全身が水に浸かっていく。
……よし、水は入ってこない。
防水もオッケー。息苦しくもない。
「ぴよー……!」(進もう……!)
ついに顔の部分まで水に入った。
目の部分も水中メガネになっているので、視界は狭いが良好である。
「ウゴウゴ……」
ウッドも大丈夫みたいだな。
ステラはすいーと腕と脚を動かして、舞うように躍り出る。
ステラが親指と人差し指で丸を作って、こちらに見せている。
『問題ありませんか?』
「ぴよよー」(大丈夫だ)
俺はふもっとアームでサムズアップする。
ウッドも同じだな。
いい笑顔でサムズアップしながら頷いている。
「ウゴウゴ……」
俺はそのまま、湖の中へ潜っていく。
着ぐるみに魔力を流すと水の抵抗がぐんと和らぐ。
これが潜水モードか。
便利だな、すいすいーと泳げる。
魔力の消費も……俺ならそこそこ耐えられそうだな。
これだと俺が泳いでいるわけではなく、着ぐるみスーツのおかげっぽいが。
ロープがあるので、岸からはあまり離れられない。
でも全身が水に入ったからな。
まず慣れることが目標だし。
『ぐるぐる……ぐるぐる……』
ステラは魚のように、俺とウッドの周りを優雅に回っていた。こっちのほうが遥かに凄い。
「ウゴ……!」
ウッドも慣れない感じだが、体の動かし方は心得ている。ゆっくりと水をかき分けているな。
『……よし!』
ステラが動きを止めて、ウッドの補助に入る。
実際に潜水の手ほどきをするのだ。
あとは……そうだな。
浮上機能もあるはずだ。
色々と使ってみよう。
『ぴよよー』(ちょっと上に行ってくるぞ)
『いってらっしゃいです!』
ハンドジェスチャーで意思疎通。
そして浮かぶことにする。
ぷかー。
ゆっくりと着ぐるみがふっくらする。
空気を生成して浮き輪にしているんだとか。
ぷかかー……。
まもなく湖面に顔が出る。
そこにはディアとマルコシアスがボートに乗っていた。
「ぴよ! ちゃんと生きてるぴよ!?」
「元気そうなんだぞ」
「よかったぴよ。水は頭が取れるぴよがいるぴよね……。とうさまは健康ぴよ」
お、おう……。
とりあえず水に浮かんだ俺は羽をぴっとあげる。
「ぴよ……!」(大丈夫だ……!)
あっ。
……潜水モードを切ってなかった。
ちなみにこのくらいクラスの着ぐるみは並の貴族だと十分くらいで魔力切れなんだぞ✧◝(⁰▿⁰)◜✧
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