381.兄、ふたたび
その頃、到着予定の港。
七体の海コカトリスが波に揺られていた。
夕日を背にゆらゆら、ゆらゆらと。
「ぴよー……」(おなかすいたー……)
海コカトリスは困っていた。
元々、彼女達はもっと沖にある小島に住んでいる。
そこにリヴァイアサンが押し寄せたのだ。
「ぴよよー……」(ここもご飯がー……)
もちろん水中戦では遅れはとらない。
しかしリヴァイアサンもコカトリスを襲うのが目的ではなかった。
目的は海底にある藻や海草を食べ尽くすことだったのだ。
そのせいでコカトリス達は苦境に陥った。
ご飯がなくなってきたのである。
やむなく、コカトリス達は小島を離れて沿岸近くに泳いできたのだ。
「ぴよ〜?」(これからどうするの〜?)
仲間の声に、リーダー格のぴよは港をじっと見つめる。
昔の記憶と比べると、異様なほどの船が集まってきていた。
しかも殺気立っているのがすぐわかる。
「ぴよよー……」(人間さんと大きな魚は戦うっぽい……)
「ぴよっぴ?」(状況が変わるかも?)
「ぴよ、ぴよ!」(うん、かもしれない!)
◇
そんな沖合のコカトリス達を桟橋から眺める、一体のぴよ着ぐるみ。
ヴィクターである。
「ふむ……」
海の荒くれ者もコカトリス着ぐるみ――ヴァンパイアは恐ろしい。
ムキムキの船乗りが、着ぐるみへ不安そうに声をかけた。
「あのぉ……この港に何か?」
「コカトリスを見ていた」
「……はぁ……」
見るとなんだか、この着ぐるみはもっちりしている。
普段見る着ぐるみヴァンパイアより、一回り大きい気がするのだ。
「あのコカトリスはこの辺りに住んでいるのかね?」
「えっ? どの辺りです?」
「この羽の向こうだよ」
もふもふアームの先をずーっと見ると、確かに海に黄色い何かが浮かんでいる。
遠すぎてぼんやりしているが。
「よく見えませんね……。いや、この辺りにコカトリスはいないはずですが」
「……そうか」
ヴィクターの眼には、ちょっと細くなったコカトリスがばっちり映っていた。
「この辺りに野菜や果物を買えるところはあるか?」
「へっ?! 俺はこれでもまだ仕事中で――」
「待機時間で手持ち無沙汰なんだろう?」
ヴィクターの眼はごまかせない。
船乗りは咳払いをする。
「いやね! こう見えても色々と忙しいんですよ! ごほごほ!」
「無論、ただでとは言わん」
ヴィクターがお腹をごそごそとして、銀貨をつまみ出す。
それを彼は船乗りに押し付けながら、
「出来れば小舟も借りたい」
「無茶言わんでくださいよ! ええっ!?
こんなにくれるんでっ!?」
駄賃で銀貨など、大貴族のチップでも聞いたことがない。
思ったよりも大人物のようだった。
それはそれとして、変人でありそうだった。
「あ、あんた……一体何者なんです?」
「ふむ。言うならば――義憤ぴよだ」
真面目な声色で言い放つヴィクター。
船乗りはごくりと喉を鳴らす。
五十年船乗りをしていた、祖父の晩年のようだ。
コカトリスが大好きで、海コカトリスの鑑賞スポットの記事を依頼されるほどだった。
そんな祖父の口振りにそっくりであった。
どんな荒波でもコカトリスを見つけ、揺られるコカトリスを参考に船を手足のごとく操るのだ。
つまりその類の人間ということである。
「わ、わかった。でも小舟と野菜と果物でどうするんです?」
その質問にヴィクターは重々しく頷く。
「配給だ」
「潮目を読むには、コカトリスが一番じゃ!」
そんなことを言ったとか言わないとか、だぞ(人*´∀`)。*゜+
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