370.ルイーゼ帰る
そうしてルイーゼは再び来る日付を五日後と決めると、ふよふよと空中に浮かんだ。
どうやらそのまま、帰るらしい。
「多少ならあたしの魔法で運んで行けるからな。まー、馬車で行ってもいいけど」
「わかった」
飛び立つ前にナナの着ぐるみの肩をぽんぽんと叩く。
「……なに?」
「いや、前より人生楽しそうでよかったよ。んじゃな。また来る!」
ルイーゼは窓からぴょんと飛び立つと、そのまま猛スピードで空の彼方へと消えていった。
嵐のような人だったな……。
「やれやれ……」
「お疲れ様です……!」
「さすがに疲れたよ」
「でもルイーゼに引かなかったのは、見事だったよ」
ナナがふにっと羽を動かす。
「本当に強烈な人だったな」
「アレがライガー家、次期当主の最有力候補……付き合っておいて、損はない。嘘をついたり騙したりはない人だから」
「別のところが過激というか、暴走気味ですが……」
「認めた人には、あれでいてそこそこ働いてくれる……。多分、半身の虎の件もあるんだと思うよ」
「ステラが北で戦った魔法具の絵か?」
話で聞いたな。
ホールド兄さんが大金出して買ったという。
「元々、ホールドはあの絵をルイーゼを経由して買ったんだ。今回、水運の話が動いたのも、その件の埋め合わせがあると思う」
「はぁ……なるほど。素直でない方ですね」
「……だったらホールド兄さんにも一応、報告の手紙は送っておくか」
ふむと頷いて、俺はナナへと向き直る。
「でもありがとう。間違いなく助かったのは、ナナのおかげだ」
「ええ、でなければ一つ二つはねじれてたでしょうね……」
俺とステラの言葉を聞いて、ナナが俺達の肩にもふっとハンドを置いた。
うん?
ずもももっとナナの着ぐるみが俺達に迫る。
「……じゃあ、ひとつお願いがあるんだ。魔王ナナって学生時代のニックネーム――記憶から消しといてっ!」
そっちの方がナナのトラウマだったか……。
◇
その後レイアが来て少し話し合いをした。
まぁ、詰めるところを詰めた感じだな。
数時間後、仕事を終えた俺とステラも帰宅する。
「ただいま〜」
「ただいまです……!」
ディアとマルコシアス、ウッドは熱心に書き物をしているな。
勉強好きらしいが、これは俺とステラの性質か。
どっちも努力を厭うタイプじゃないし。
「おかえりぴよっ!」
「おかえりなんだぞー!」
「ウゴ、おかえりなさい!」
さて、問題は誰を送るかと言うことだ。
ソファーに座り、思案を始める。
「……失礼します」
ステラがすすっと俺のふとももを枕にする。
早い。
「ふぅー……」
ステラがにこにこモードだな。
「……行ってくれるか?」
「海ですよね? もちろんです……!」
ステラは二つ返事で引き受けてくれた。
「海ぴよ!? このすっごく大きい水たまりぴよか!?」
「しかもしょっぱいんだぞ」
「ウゴウゴ、ずっとずーっと向こうまで水なんでしょ……! スゴい!」
子ども達が盛り上がっている。
やっぱりそうだよな。
海には海の良さがある。
それは、絵では体験できないものでもあるのだ。
「……ぴよよ。でも、とうさまは?」
ディアがはっとして、俺の足元に走ってきた。
そして俺の脚に体をすりすりとさせてくる。
「とうさま、またお留守番ぴよ?」
「んう、そうだな……。多分、そうなるかと……」
「……ぴよよ……」
ディアが見るからにしょんぼりとした。
……心が痛む。
でも――仕方ないんだ。
ステラがディアを抱き上げて、俺を見上げる。
その瞳はきらきらとしていた。
「でも案外、今回はエルト様も来られるかもですよ?」
何を思い付いたのだろうか。
……そのきらきらとした瞳の中に、コカトリスが飛び跳ねているような気がした。
こっそり、秘密に、ぱぱっと……!
これが指し示すものはひとつだぞ……!(。•̀ᴗ-)✧
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