367.ルイーゼの言い分
あれがルイーゼ?
ライガー家の次期当主の最有力者……?
あの背丈、細身でちょっと尖った耳はハーフリングだ。髪の色も確かに……。
と、ルイーゼが俺の方を見上げる。
「おっ! いたじゃん!」
目が合ったと思ったら、ルイーゼはすぐに飛び上がる。
そのまま彼女は三階の高さまで浮かび上がり――窓の側まで寄ってきた。
……風の魔法か。
こうして空を飛んで、この村までやってきたんだな。
ルイーゼの挑戦的な瞳は、俺を値踏みするのを隠さない。
「ふーん。こうみると似てんねー。君がエルト・ナーガシュ君で合ってる?」
「……ああ、君はルイーゼ・ライガーで合ってるか?」
年齢的にはルイーゼのほうが遥かに上。
だが、一歩も引く理由はない。
というより引いてはいけないのだ。
「肝が座ってんなー。蛇は動じねーってか。ああ、あたしがルイーゼで合ってるよ」
「ありがとう、俺もエルトで合っている」
「言うねぇ。あたしはまどろっこしいのが嫌いだから、簡潔に言うぜ。ザンザスからリヴァイアサンの討伐の話は聞いてるか?」
「今、聞いた」
「アレの主導権はあたし達にある、以上」
無茶苦茶な奴だな。
それを言いにここまで来たのか?
「無茶苦茶な人ですね……」
ステラがささやく。
やっぱりそう思うよな。
アレ?
レイアがいつの間にか消えている。
「……レイアは助けを呼んでくると言って、ささっといなくなりました」
「そ、そうか……」
「それともうひとーつ!」
ルイーゼが叫ぶ。
「ステラとか言うのは、ここにいるか!?」
「……うっ」
ステラがうめく。
俺もなんだか嫌な予感がする。
そう――黒竜騎士団の騎士達と同じ言い方だ。
「いたとして、どうする?」
「決闘だ! あたしは強い! あの伝説のトリスタン卿と互角に戦った、コブラツイストマスター・ディナダン卿の血が流れているんだ!」
「あのディナダン卿の……!?」
ステラが小さく叫ぶ。
誰だ、それ?
いや……なんとなーく、本で読んだ覚えがあるぞ。
トリスタン卿のライバルの一人に、そんなのがいたな。絞め技と寝技、関節技の名手だったか……。
ドラゴンも絞め落としたとか、なんとか……。
「ん? もしかしてお前がステラか!? ザンザスの像にそっくりだぞ!」
「……まぁ、そうだが……」
やはり気付いたか。
隠し通せるものでもないけれど。
「決闘だ! あたしと戦え!」
「お断りいたします」
あっさり拒否するステラ。
そうだよな、ステラはそういうのを望まない。
「それが本当に二つ目の要件なのか……?」
脳筋すぎて何とも言いようがない。
というより、徐々に人が集まってきた。
こんなところでふよふよ飛ばれたら、仕事にならんのだが……。
「そうだ、お前の力を見せてみろー!」
ずびしとルイーゼがステラを指差す。ルイーゼはあくまでも、決闘をお望みか。
さて、どうしたものか。ステラは乗り気でないし。
と、窓の下にぴよっとした影がいる。
あれは――着ぐるみを着込んだナナだ。
隣にはぜーはーと息を吐くレイアがいた。
「……ルイーゼ、何してんの?」
その声音はびっくりするぐらい低くて冷たい。
そしてナナを見下ろしたルイーゼは、びくっと震えた。
「げっ!? ナナ!!」
「ちょっと降りてきてよ。話がある」
「ま、待て! まだ話の途中なんだ!」
「……降りてこい」
うわ、殺気がすごい。
というより顔見知りだったのか。
「〜〜……っ」
ルイーゼが悔しそうな顔で、すすっとナナの所にまで降りていく。
おお、ナナの言うことを聞いた……。
「久し振り、ルイーゼ」
「お、おう……」
ルイーゼはナナにびびっているような感じだな。
ナナがもこっとした羽でルイーゼの肩を掴む。
逃さないように。
「とりあえず、トマトジュース飲みに行こうか?」
――数十分後。
ルイーゼが、今度はちゃんと執務室にノックして入ってきた。後ろにはナナがいる。
ルイーゼに対して目を光らせてる感じだな。
ちょっと涙目のルイーゼは俺達に対して、こう言った。
「……悪かった」
トマトジュースにしてやろうか、だぞ✧◝(⁰▿⁰)◜✧
ナナぴよは委員長タイプだぞ。
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