357.考えてみると
ザンザス、死鳥の平原。
川流れのコカトリスの、最後の一匹がぴよよーと下流に行くのを二人は見届けた。
「にゃ。ここで火は厳禁にゃ?」
「ええ、そうですねぃ。ここは乾燥してますからね」
シュガーとナールは川辺でお昼ご飯の準備をしていた。
パンにハム、それに野菜をちょっと。それに紅茶を用意する。
持ってきたシートを敷いて、並べると完成だ。
ナールも馬車で行き来することが多く、簡素な食事でも問題ない。
腰を落ち着けたナールが、虹色の川を眺める。
「にゃー……本当にキラキラしてるのにゃ」
「まさにダンジョンの驚異ですぜ。俺も来るたびに心が洗われますからね……」
死鳥の平原はほぼ乾燥した晴れ日が続く。たまに強烈な雨が降るくらいだ。
ザンザスとは隔絶した気候である。
「ここには本当にコカトリスしかいないのにゃ?」
「知られている限り、ザンザスには他に獣や鳥、魚はいないですねぃ。他の魔物も植物や石みたいな奴だけでさ」
小さな虫くらいはいるものの、他にコカトリス以外はいない。
それもザンザスの特徴であった。
パンをぱくつきながら、ナールが頷く。
「変わった空間にゃねー。でも、あちしは好きにゃ」
乾いた風と、目の前の七色に輝く川。
わずかに揺れる茶色の草。
全てが初めてだった。
「他にも……いっぱい川があるにゃ?」
「小さいのも含めれば十個くらいは川がありやすね。どれも見応えがありますよ」
「いいにゃねー」
元々、ナールは好奇心の強いほうだ。
そうでなければ、ヒールベリーの村にいきなり移住はしなかったろう。
とはいえ、仕事をおざなりにする性格でもない。
最近は色々な仕事があり、こうした機会がなければダンジョンに行くこともなかったろう。
静かに川を見つめながら、今度は紅茶を飲む。
用意してきたのはシュガーだ。ザンザス産の優しい味がする。
でも味覚の鋭い自分に合わせると、シュガーには軽すぎる気がした。
しかしそこの所は甘えておく。二人ともいい大人なのだ。
「……村に戻ったらお見合い会にゃねー」
どうしてこの話題を出したのか、ナールにもよくわからなかった。
ただ二人とも独身で、しかも恋人がいないからだろう。それをお互い知っているという間柄でもある。
「ですねぃ……」
シュガーがちょっとだけトホホ、という顔をする。
「でも俺は結構最初のほうの移住でね……。しかもレイアの主催でしょ? なんとなーく、ちょっと気まずさが……」
「それはわかるにゃ……」
ナールも軽く頷いた。
「でもこういう機会を逃すと……にゃ」
「そーなんですよねぇ」
「シュガーはなんか理想とか希望とかあるのにゃ?」
「うーん、冒険者ギルドを辞めるつもりはないですからね。仕事に理解があれば……」
「あちしもにゃ。仕事を辞めるつもりはないにゃ」
そこでシュガーとナールが声を揃える。
「ん?」
「にゃ?」
ナールがさらに言葉を続ける。
何かが繋がりそうな気がしていた。
「あとはお金とかはきっちりしたいにゃ。あちしの商会は商会、お互いの稼ぎは稼ぎにゃ」
「……うちは家の関係で、ゴタゴタしてるのはちょっと……」
「あちしの両親は北で隠居してるのにゃ」
「ああ、ポーション器具の整備業で悠々自適でしたっけ?」
「そうにゃ。父さんから継いだブラックムーン商会を、あちしで潰すわけにはいかないにゃ」
「立派ですねぃ……」
うんうんとシュガーは頷く。
「にゃ……もしかしてにゃ……」
「……俺もちょっと気になったんですが」
二人は顔を見合わせる。
外見的にも合格点だ。
性格はそこそこよく知っている。
周囲の評判も良い。
それに――このハイキングは楽しかった。
年甲斐もなくはしゃいだ感じさえある。
にゃーっとナールは考えた。
「あちし達、意外と相性いいにゃ?」
「……ですねぃ」
…………✧◝(⁰▿⁰)◜✧
これもまた、ひとつの形なんだぞ(人*´∀`)。*゜+
お読みいただき、ありがとうございます。