356.春は目前
轟音が響いてから、ウッドの大声が聞こえてきた。
「ウゴウゴ、終わったよー!」
「わかった!」
俺達はささっと通路から広場へと飛び込む。
そこには横倒しになった巨大パズルマッシュルームがあった。さらにそれに乗って、すでにつまんでいるコカトリス達の姿が見える。
「ぴっ……ぴよっぴ」(むむっ……この辺、まろやかじゃない)
一体のコカトリスが羽で指し示す。そうすると二体が羽でぺちぺち、脚でふみふみしてる。
「ぴよぴよ」(ぺちぺち……)
「ぴよー」(ふみふみー)
……すっかりおやつタイムだな。
元気いっぱい、怪我はないようだ。
「ウゴ、こっちの小さいパズルマッシュルームも倒した!」
腕を振るウッドが巨大パズルマッシュルームをめくる。
そうして、下敷きになったパズルマッシュルームを引っ張り出していた。
こちらも動かないな。ちゃんと倒してるようだ。
俺も腕を振りながらウッドに近寄る。
「大丈夫か、ウッド?」
「ウゴウゴ! タックルしたら終わった!」
「良かったです。こういう相手には思い切り突撃するほうが、いいこともありますからね……!」
うんうんとステラが頷く。
ステラが言うと説得力があるな……。
続々と冒険者達も広場に展開していく。
遅れてブラウンも入ってきた。
「にゃーん。パズルマッシュルームが大量にゃん。あとは……にゃん」
くむくむとブラウンが目を閉じてひげを動かす。
ニャフ族も感覚は鋭い。
「あっちこっちにキノコがありますにゃん」
「ふむ、サンプルに持って帰ろうか」
問題は巨大パズルマッシュルームの処置だ。
食べ切るのはさすがに無理だろう。
切って、持っていける分だけ積んで帰るか……。
そんなことを考えていると、ウッドが俺とステラを呼んでいた。
「ウゴウゴ! これ、とってもいい色!」
見るとウッドが何かを掲げている。つぶらな瞳がきらきらと輝いていた。
それで俺はピンと来た。
「ウッド、もしかして――見つけたのか!?」
「ウゴ、見て見て!」
俺がそう言うと、ウッドは腕を下げて『ソレ』をよく見えるようにしてくれた。
ウッドの手の中に、真紅のベリーマッシュルームがある。ステラもそれを覗き込む。
「わぁ、綺麗な色ですね……!」
「完全な紅色だな。これなら……」
「ウゴウゴ、行けるかも!」
「よかったな……!」
ぽむぽむとウッドの体を撫でると、ウッドも嬉しそうに頷いている。
「ウゴ、ありがとう……! 皆のおかげ!」
「これでいよいよ、巨大草だんごを作るんですね……!」
ステラも心なしか、少し涙ぐんでいた。
最初にベリーマッシュルームを求めてから、結構経っている。
俺も感慨深い。
「ウゴ……作って、プレゼントする!」
「ああ、頑張るんだぞ……!」
俺の言葉にウッドは力強く頷いた。
「ウゴ! 油断せずに、こねこねする!」
こうして巨大草だんごの材料もゲットできた。
村ではレイアがお見合い会の準備を進めているだろう。
地下広場の中はひんやりしている。
しかし、もう三月も半ばだ。
もう春は目前だった。
色々と進んだんだぞ。そろそろ……なんだぞ。
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