346.進化する遊び
翌日。
コカトリスの朝は遅い。
気が向くまで寝ているからだ。
だけどヒナコカトリスはぱちりと目を覚ました。
お昼寝をたっぷりしていたこともあり、それほど眠らなくてもすんでいた。
「ぴよよー……」(おきたー……)
ヒナコカトリスは、母コカトリスのお腹の上でもぞもぞした。コカトリスのふわもっこボディが至高のベッドなのだ。
ごろごろ、すりすり。
母コカトリスのお腹を満喫。
その後は弱めのシャワーを浴び、ご飯を食べる。
栄養満点の野菜、果物、ザンザスのダンジョンからもご飯は届いている。
それをもりもり食べるのだ。
「ぴよー?」(んー?)
ヒナは首を傾げる。
父コカトリスはそんなヒナコカトリスの頭を撫でる。
もこもこ。
「ぴよっぴ?」(どしたのー?)
「ぴよ、ぴよよー」(なんか、うしろからおとがするー)
ヒナが意識を向けると、宿舎の外で音がしていた。
あまり聞き慣れない音だ。
カッキーン……。
あとけっこうな人間さんがいそうな気もする。
耳をすませると足音も聞こえるのだ。
「ぴよ、ぴよ」(あっ、今日はあの日かー)
「ぴよ……ぴよ……」(あれ、ね。今日は音がよく響く……)
遠い目をしたコカトリスが答える。
ヒナはよくわからず、首を傾げたままだ。
「ぴよっぴ、ぴよー!」(なになにー、しりたーい!)
そんなわけで、親子コカトリス達は宿舎を出て裏手に回ることにした。
そこでヒナが目にしたのは――。
◇
ステラ達は野ボールをしていた。
第二広場を貸し切って、色んな人が思い思いにバットを振ったりボールを投げたりしている。
「ばっちこいーです!」
木のヘルメット、手袋、ユニフォーム。
そしてエルト特製バット。
ほどよく暖かい天気に、広々としたグラウンド。
全てが馴染み、あるべきところにある。
そんな気さえする。
ディアとマルコシアスは、ベンチに座って一休み中だ。
「ぴよ、かあさま楽しそうぴよ」
「物凄くノッてるんだぞ」
昨日、ステラはエルトから野ボールのルールを新しく仕入れたのだ。
「三回でアウト、三回でアウト……」
ステラは呟く。
要は三回空振りしたらアウト、ベンチへ戻る。
そしてアウトが三つ重なると攻守交代。
「ウゴウゴ、三が大切みたいだね!」
「そのようですね……」
ベースも三つ、野ボールをする区域も三角形。
ルールもなかなかに複雑である。
「エルト様いわく、古の神事から発展したとかなんとか。ナーガシュ家の源流は使徒時代にまで遡るようですし、十分にあり得る話です」
これはエルトの作り話ではない。
古代エジプトの壁画には、ファラオが長い棒で球を打つ様子がはっきり描かれているのだ。
その球の行方によって、吉凶を占ったという。
「……おや?」
「ウゴ?」
ステラが振り返ると、そこにはコカトリスがいた。
カップルコカトリスの羽の間に、ヒナがいる。
ぴよぴよしていた。
かわいい。
「ウゴ、野ボールに興味あるのかな?」
「ここに来るということは、そうでしょうね……!」
第二広場での活動はコカトリスも知っているはず。
それをヒナに見せているということは――ヒナに野ボールを教えたいのだ。
……きっと。
「ぴよ、お隣どうぞぴよー!」
「座るんだぞ」
ベンチの端に移動し、親子コカトリス達にも座ってもらう。
「ぴよっぴー」(ありがとー)
もふ、もふ。
ベンチにもっちりふわもこコカトリスが並ぶ。
「ぴよ、ぴよよー?」(あれがやきう、やきうなのー?)
「ぴよー」(そだよー)
「ぴよー……ぴよ!」(へー……おもしろそう!)
ヒナコカトリスはキラキラした瞳を第二広場へと向ける。
そしてその視線の先に、すっすと割り込むステラ。
「はやぴよ」
「残像が見えたんだぞ」
そのステラの手には、小さなボール。
「ふふっ、野ボールに興味がありますか……?」
これまた素晴らしい笑顔で、親子コカトリスに語りかけるのであった。
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