343.おはぴよー!
ヒナコカトリスが自分を温めていたコカトリスにすりすりと体を寄せる。
「ぴよー!」(おはよー!)
それを見た親コカトリスが、ふわもっこの羽の先で優しく撫でる。
「ぴよー!」(おはようー!)
「ぴよっぴー……」(なでてー)
それから宿舎のコカトリスが一体ずつ、ヒナに近寄って羽先で撫でていく。微笑ましい光景だ。
「ぴよー、ぴよっっ!!」(ただいまー、あっっ!!)
一体のコカトリスが果物を持って現れた。
ヒナを見るなり、ものすごくびっくりしてる。
「もうひとりの親ですね……」
「この反応はそのようだな」
「ぴよ、顔合わせぴよ!」
もう一方の親コカトリスはヒナにそろりと近寄ると、そっと羽を差し出す。
「ぴよー……?」(かあさまー?)
「ぴよ、ぴよー!」(そうだよ、おはようー!)
「ぴよぴ、ぴよー!」(おはよー、なでてー!)
「ぴよー!」(もちろんー!)
ふわもこ、ふわもこ……。
そうしていると、ヒナは少ししてすやすやと眠り始めた。ディアが生まれた時と同じだな。
「ねちゃったぴよねー」
「寝る子は育ちますからね」
「ああ、お昼寝の邪魔をしちゃ悪い。外に出ようか」
パズルマッシュルームの謎はわかった。あとは俺達で力を加えてみればいいわけだし。
俺達はぴよぴよしているコカトリス宿舎をそっと後にする。
ステラに抱えられたディアが羽をぴっと上げ、
「村のひとたちに知らせるぴよよ!」
「そうだな。……何人か生まれるのを心待ちにしている人もいるだろうし」
ギルドマスターのあの人とか。
「そうですね……!」
ステラもほくほくしている。やはりコカトリスが大好きなんだな。
「ヒナも生まれましたし、これできっとお見合い会も盛り上がりますね!」
……どうかな?
俺は言葉に出さず、心の中でつぶやいた。
◇
ナナの家。
そこではヒナ誕生を聞いたレイアが、床に倒れていた。顔だけは自作ぬいぐるみでガードしている。
その知らせを持ってきたエルトはさっさと帰ってしまったが、仕方ない。
「…………」
分厚いカーテンで締め切った部屋なので、ナナは着ぐるみ姿ではなかった。彼女はカチャカチャと魔法具を弄っている。
「そんなにショックだった? ヒナの誕生が見れなくて」
少し気遣う風に言うナナに、レイアはそのままの体勢で答える。
「いえ……。天使の誕生を目撃すると心臓に過負荷がかかるかもなので……」
「そ、そう……」
かつてレイアはヒナを目撃するために、ザンザスのダンジョンで数日間潜伏していたことがある。
木の上に潜み、乾燥パンをかじりながら……ヒナを連れた群れを待っていた。そのときはヒナを目にした後、数時間ぼーっとしたものだ。
「無事に生まれてくれて良かったです。これでお見合い会も盛り上がるでしょう」
「……ねぇ、ひとつ聞いてもいい?」
ナナは工具を置いて、レイアへと向き直った。
「なんでしょう?」
「あなたって他人の恋愛に気を回すタイプじゃないよね。それがどうして?」
少なくとも誰と誰がカップルとか、そういう話題を話したこともない。多分、このコカトリスのカップルの話が初めてのレベルだ。
「気になります?」
「好奇心が刺激されるくらいにはね」
「シュガーは元彼とかじゃないですよ、別に」
「……心を読まなくてもいいよ」
レイアは変人な癖に、妙に鋭いところがある。
「私は良かれと思ったんです。でも結果としては……全て良しにはならなかった」
眉を寄せるナナに、レイアが顔をごろりと横に向ける。
「男の子の恋愛って難しいですよねぇ……」
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