334.次のプラン
とりあえず、あらましはわかった。
「命名権が欲しいということか……」
「そうですね。それに魔導トロッコは輸送と観光、両面で考えて頂けると……」
ステラが俺を見る。
「とりあえずは輸送だけでしたよね。観光は……その先ということで?」
「そうなるな。でも結局は利益がどう出るかだ」
地球でもそうだ。ある種の鉄道は、乗っているだけで観光になる。あるいは観光地に人を運ぶことで利益を生む。
モノを運ぶだけが鉄道ではない、それは確かだ。
「まぁ、前向きに考えよう。とりあえずは地下通路の探索だけだからな、今日の話は。観光利用については具体的な話をまとめてきてくれ」
「ありがとうございます、尽力しますね!」
レイアがにこっと微笑む。
どうやら落とし所は最初からそこだったようだ。
「そして――もうひとつ。野ボールについてなのですが……」
「――!」
ステラの瞳がきらりと光る。
レイアがこほんと前置きをして、
「ザンザスでも正式にやりたい人がそこそこおりまして、つきましては道具をですね……」
「……わかった」
ちらっ。
ステラが期待を込めた目で俺を見てるんだ。
断れるわけがなかった。
まぁ、道具として作るのが大変なわけじゃないし。
バットを魔法でイメージして作るだけだ、うん。
「そこでユニフォームも、相応の数を頂戴したく……これもお金はお支払いしますので!」
「ほう、ユニフォーム……」
ユニフォームについては、やはりすぐの普及は難しい。これはホールド兄さんとの話でもわかっていたことだ。
服飾が身分、格式、伝統に直結しているからな。
特に貴族ではそうだ。
芸術祭で来たのは上流階級なので、この辺りは仕方ないが……。
問い合わせもあるのだが、ユニフォームという服飾形態よりマルデコットンについてだな。
「丈夫、ということでやはり需要がありますね」
「いいですね……。これからの季節にはぴったりですよ!」
ステラがうんうんと頷く。彼女は夜になるとほぼユニフォーム姿だったりする。
「よし、ウッドに頼んでそれも作ろう」
コツコツと積み重ねていくんだ。
魔導トロッコもそうだが、一気に出来るということはない。
ひとつずつ作って広げていく。
それしかないのだ。
「魔導トロッコも野ボールも、どちらも進めていく……! どっちもやるんだ!」
「「おー!」」
◇
一方、大樹の塔の前の土風呂。
アラサー冒険者が夜勤の疲れを取っていた。
「はぁぁ……効く……」
向こうの果樹園では、コカトリスが栗の収穫作業をしている。
「ぴよ」(とげとげしてる)
「ぴよぴよー」(でも甘いよー)
「ぴよ、ぴよっぴ!」(そうなんだ、あとでもらって食べよ!)
栗にはトゲがあるが、コカトリスの強靭なボディには全く歯が立たない。
さささっーと収穫されていく。
「もう春だねぇ……」
三月に入り、ますます暖かくなっていく。
コカトリスが卵を生んだことはすでに聞いていた。
「……春だねぇ……」
アラサー冒険者の視界にはエルトとステラがいた。
仲良さそうに歩いている。名実ともにお似合いの二人だ。
そこへ、レイアが土風呂を楽しむために現れた。
「来ていたのか……。まぁ、あなたは大体いますか」
「ん? レイアか。話し合いは終わったんで?」
アラサー冒険者が少し首を動かして聞く。
「ええ、つつがなく」
「そりゃなによりで……」
「たそがれてるな、なんだか」
ふーっとアラサー冒険者が息を吐く。
「新しい生活、新しい住人……いえね、コカトリスが卵を生んだと聞いて――」
「天使!」
「……そう、天使。俺にも天使が来てくれないかなぁって思っただけでさ」
「あなたは私の話を流さずに続けてくれるし、いつか春も来る」
「他人事ですねぃ」
「他人事だ」
レイアとアラサー冒険者の付き合いは長い。
もう十年以上になる。それゆえの気安さだった。
「私は私で満ち足りているが……ふむ、頃合いかも知れない」
レイアがぽん、と手を打つ。
「何のです? あんまり良いアイデアな気がしないんですが」
アラサー冒険者の言葉を無視して、レイアは言い放つ。
「春のお見合い会、だ!」
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