327.卵の事情
テテトカから話を聞いた俺達は慌ててコカトリスの宿舎へと向かった。
途中で冒険者ギルドで仕事をしていたステラも合流する。
村を早歩きしながら説明すると、ステラはふむふむと頷いた。
「コカトリスが……そうですか」
「意外と驚かないんだな」
「地下広場で仲良さそうにしていたカップルもいましたからね……」
「……そう言われると、そうだな」
思い出してきた。
確かに連れ添って仲良さそうにしていたコカトリスがいたな。
もっともコカトリス同士は常に仲良さそうにしているので、よくわからないのだが……。
「にゃー。コカトリスの雛ってどうなのかにゃ……。必要なものとかあるのかにゃ」
「ザンザスのダンジョンでは……ぴよちゃんって増えてるんですかね?」
首を傾げるステラ。
「月刊ぴよでも、コカトリスの卵についてはほとんど触れられてないですし……」
「ふむ、俺より読み込んでいるステラが言うならそうなんだろうな……」
実はコカトリスのそういうところは、あまりよくわかっていない。
捕獲できない以上、フィールドワークしかないからな。
「ふむー。その辺、ララトマなら知ってるかもですけどー」
「……そうなのか?」
「地下にいたコカトリス達を育てたのはララトマですよー」
「えっ?! そうなんですか!?」
びっくりするステラ、俺も驚きだ。
いや……ドリアードは過去のことにこだわらないし、昔話をすることもあまりない。
しかも時間感覚は俺達とかなり違うからな。
「にゃ。でも地下で一緒にいたのならありえますにゃ」
「そうですね……」
「言われればそうだな……。意識してなかったが」
「どうしますー? 塔によりますー?」
「ララトマは今どうしているんだ? お仕事中か?」
「はいー。ウッドと草だんごをこねこねしてますよー」
「…………」
「エ、エルト様……!」
ステラが俺に視線を向けるが、仕方ない。
「二人を連れて行くぞ……!」
◇
コカトリスの宿舎。
俺達はひとかたまりになって、宿舎の窓から様子をうかがっていた。
「ぴよ……」(いる……)
遠い目をしたコカトリスがこちらを見ている。
だが、それ以外のコカトリスは寝っ転がって思い思いに過ごしているようだな。
「ウゴ……卵はどこにあるんだろう?」
連れてきたウッドも興味津々といった感じだな。
ララトマとの草だんごに割り込んだことは大丈夫そうだ。
……この辺りもひとつひとつ経験でもあるからな。
どういう反応が返ってくるかはわからない。
まぁ、ウッドは心が広いから大丈夫だと思うが。
「んむんむ。あの遠い目をしたコカトリスの子が持ってますです!」
「おー。あたりー」
テテトカがぽむぽむと手を叩く。
「朝ご飯を用意してたら、卵を持って移動したんだー」
「なるほど……」
「でも、よくひと目でわかったのにゃ」
「あの子たちは皆、私が育てましたです……! ひと目見れば、わかります!」
ララトマがえへんと胸を張る。
大したものだ。
「卵を確認したいが……大切そうに温めているんだよな。それは無理か」
「またご飯の時にはわかるかもー?」
「ふむ……。ララトマもいれば確実にわかりそうだな」
「はいです!」
とりあえず宿舎から離れることにする。
コカトリスは気にしないだろうが、不審極まりないからな。
「……俺達は何かやることがあるか?」
「ご飯をたくさん用意すればオッケーのはずです……! 孵化させるのに、魔力を使いますから!」
「ディアと同じですね」
ステラの言葉に俺も同意する。
そしてそれなら、大した労力ではない。ご飯となるものはたくさんあるからな。
「よし、もりもり食べてもらって孵化の手伝いをしようか……!」
「そうですね、かわいいぴよちゃんが増えますし……!」
ステラも楽しそうだな。当然か、ステラはコカトリス大好きだし。
「にゃ。レイアも何か知ってるかもにゃ」
「……そうだな」
なんとなく反応は予想できるが。
数日後、レイアが北の地から戻ってきた。
そしてこの卵の話を聞くと、膝から仰向けにばったり倒れたのだ。
「天使……!」
と言いながら。
お読みいただき、ありがとうございます。