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318.変幻自在の虎

「現れましたね、虎……!」

「グルルルル……」


 目の前の虎は確かに、前に見た虎と同じ。

 だが違いは明白だった。

 前回のある意味、幻のような存在感とはまるで違う。


「だ、大丈夫なのか……!?」

「大丈夫! 集中して!」


 ホールドが叫ぶのも無理はない。

 虎は全身から爆ぜるような魔力を放っていた。


「それがあなたの本気というわけですね」

「……グルル!」


 唸る虎が一歩前に進む。

 虎は獣王の覇気に満ちていた。


「フレーフレー、はっはうえー!」

「フレーフレー、かあーさまー!」


 テケテケ。

 マルコシアスとディアはドラムに合わせて歌っていた。歌の力がステラを後押しする。


「グアア!!」


 虎は大きく息を吸い込むと、魔力を爪の先に集中させた。嵐と冷気が形となり、虎の爪先が強化される。


「ふむ……近接戦闘がお望みですか?」

「グルァァ!!」


 虎が前脚を蹴り出し、ステラへと向かっていく。

 虎の前脚は半分ほど凍てつく冷気に覆われ、ツララのようになっていた。


「――!」


 ステラが思ったよりも速い。

 虎はぐわっと飛びかかってくる。


「でもまだまだです!」


 ステラはスライディングで虎の下を潜り抜ける。

 一瞬の交差だが、ステラには難しいことではない。


 虎も飛び掛かった先で振り返り、体勢を整える。

 互いに隙を見せず、じりじりと距離を詰める。


 この状況は望むところだ。時間稼ぎが第一の目的なのだから。

 拮抗するなら、それもまたよしである。


「かっとばせー、はっはうえー!」

「かっとばせー、かあーさまー!」


 すすっとさらに後ろへとマルコシアスとディアは退避していた。少女姿ならばびゅん! も高精度で使える。

 回避は任せても大丈夫だろう。


 屏風の裏からナナとホールドの声がする。


「あだばっ!」

「だ、大丈夫か!?」

「気にしないで! 学院時代もこうだったでしょ!?」

「そうだが……」

「えいっ、えいっ!」


 ナナがドライバーをしゅばばばばっと動かす。

 残像が見えそうなくらいだった。


「お前のことは信用しているが、相変わらず怖いやり方だな……」


 どうやらナナのほうは順調らしい。

 ……きっと。


「さぁ、あなたの相手はこちらですよ……!」


 ステラはデュランダルを構えて、にじり寄る。


 その瞬間――虎の姿が消え、ステラの前に突然現れる。


「っ!?」

「ガルルルッッ!!」


 瞬間移動。そう悟ったときには、ステラは行動していた。

 バットを振り上げて、爪の一撃を受け止める。


「させませんよ……!」


 ステラのバットは彼女の魔力を受けて強化されている。爪がバットに触れるものの、傷ひとつ付かない。


「ていっ!」


 ステラはすっと力を弱め、体を引き抜く。

 虎が体勢を崩したところをバックステップで距離を取る。


 思いの外、多彩な攻撃パターンだ。

 これが虎の特性なのだろうか。


「ステラ、ちょっと虎を弱らせてくれないかな?! 回路が見えづらい!」

「いいんですか!? 燕みたいに攻撃パターンが変化するかもですが!」

「あともうちょい、詰めの回路が見えづらいんだ……!」

「わかりました!」


 そう決まれば、攻撃に転じるだけだ。

 しかし瞬間移動で隙を見つけるのは、さすがに簡単ではない。


 何回か無駄打ちをさせて、手の内を見てから――。


「グルルルル……!」

「魔力が……。まだ攻撃パターンがあるんですか?」


 虎の放つ魔力がまた一段と変化する。

 今度は周囲を覆い尽くすような、幅広い嵐のような魔力だ。


「グルァッ!!」


 叫んだ虎の腕が消えて、いきなりステラの目前に現れる。


「腕だけ!? そんなことも……!」


 器用な虎だ。

 燕に比べれば苛烈さはないが、変幻自在と言うべきか。方向性の違うやり辛さがある。


 だが、ステラは百戦錬磨。

 突然ワープしてくる魔物との戦闘経験も豊富にある。


 たとえ刹那の動きといえども、ステラは対応可能なのだ。


 振り下ろされる凍てつく爪。

 ステラは狙いを定めてバットを振り抜く。


 カッキーーン!!


 虎の爪を覆う氷が砕けて、派手に飛び散る。

 切り離された前脚も空中に弾き飛ばす。


「いったぴよー!」

「わふー、ヒットだぞ!」

「いえ……浅いです!」


 ステラはふぅと息を吐く。

 正直、当てるので精一杯だった。


 燕とは明確に違う。燕が圧倒的火力なら、虎は煙のような縦横無尽。


 次々と攻撃パターンが変わる上、体のパーツごとにワープともなると合わせるのは至難だ。


「でも……!」


 ステラは気合を入れ直す。

 着実に虎の手の内は見ている。

 あと何が出てくるか、やってきそうか。


 野ボールと同じだ。

 的はステラ自身。球種も無限ではない。当てられないのは想像力と反射神経の問題である。


「……いきますよ!」


 パターンを先読みして、フルスイングをぶちかますのだ――!

お読みいただき、ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] 打てば見えてくるのか 見えてくれば打てるのか やきゅー哲学小説になりかけてる気がしてきました
[一言] 更新有り難う御座います。 ……変幻自在……つまりは[ ”トラ” ンスフォーム]!? 小劇場 (氷塊を打ち返したステラに対して) 虎「……良い攻撃(イイノック)だ……。   だが、そんな…
[良い点] 更新ありがとうございます‼ 現在、この異世界で1番安全な場所  1:コカトリスの側  2:ステラ(バット2本装備済み)の側  3:エルト・ウッドの側 …ヒールベリーの村、最強… […
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