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302/834

302.博士の娘、ケイト

「いっぱいひとがくるぴよねー!」

「ひっきりなしなんだぞ。……大丈夫かなんだぞ?」


 マルコシアスはぽむぽむとすぐそばのディアを撫でる。ふんすーとディアは気合が入っていた。


「へっちゃらぴよ! どんとこいぴよよー!」


 うつ伏せの状態でディアが脚をバタバタさせる。


「……それより、かあさまのほうがアレかもぴよ」

「んむ。気付いちゃったんだぞ」


 ステラの周囲にも人がひっきりなしに来ている。

 ディアやマルコシアスが案内とすれば、ステラはそれ以上の応対をしていた。


「はい、こちらサイン……! はい、初めまして……!」


 能力が優れているゆえ、ぐるぐる回せるのがステラらしいが。高級紙のサインやら、握手やら……。

 まるでスターのような扱いだった。


「母上、ここでも人気なんだぞ?」

「みたいぴよねー。ナナはどうしてか、しってるぴよ?」

「彼女はかなり幅広く活躍したからね……。ザンザス以外でも有名なんだよ」

「そう言えば、スティーブンさんとして名前が残ってたんだぞ」


 マルコシアスはこの前の村のことを思い出していた。


「ステラの主たる活動がザンザスなのは間違いない。彼女ほどザンザスを深く探検し、攻略法を確立した冒険者はいないし。でもザンザスに行き着くまでに、色々と魔物を倒してるみたいで……」

「かあさまはにげないぴよ!」

「そういうことだね。それこそ騎士団総出で戦わないといけない魔物も、彼女ならあっという間に倒してしまうし」

「確かにアイスクリスタルのときみたいに、ぱぱっとやっつけちゃうかもだぞ」

「そういうこと。僕も彼女には驚くばかりだけどね」


 そんなこんなで、皆で大勢のお客をさばいていく。

 さすがに長時間ステラに構う人はいない。皆、節度ある大人である。


 しばらくそうしていると、やっと人波が途絶えてきた。時刻はお昼近くになっている。


「あっ」


 ステラが思わず小さな声を上げる。


「盛況なようだな」


 着ぐるみのコカ博士がぬっと現れる。

 中身がエルトの兄、ヴィクターであることはまだ知られていない。


「おかげさまで……!」

「いらっしゃいなんだぞ」

「ぴよ。いらっしゃいぴよよー!」


 ふむふむとヴィクターがブースを見て回る。


「俺としては、この花飾りが好きだな。シンプルに美しい……」

「良かったです……!」

「芸術は良い。俺は創るほうは向いていないが……」


 そこでヴィクターはディアとマルコシアスが寝そべる籠をじっと見つめる。


「ぴよ?」

「そう言えば、この芸術祭は見て回ったのか?」

「まだぴよ」

「準備があったから、他は見てないんだぞ」

「ですね。私も見て回りたいですが……」

「そうだね、僕も見て回ってないや」


 ふむふむとヴィクターが腕を組んで頷く。


「ここはザンザスとの共同出展の部分もあるんだろう? 店番をちょっと向こうに任せて、見て回るのも良いかと思うがな」

「なるほどなんだぞ」

「アイスクリスタル討伐のささやかな礼として、俺が解説役になろう」

「ほんとぴよ!?」


 ディアが目を輝かせる。

 目の前のぴよはなんだか、頭が良さそうなオーラがあるのだ。


「それはありがたいですが、良いのですか?」

「ふむ。気にしないでくれ」


 そしてヴィクターが入口のほうに目をやると、すすっと小さなコカトリスの着ぐるみが現れる。ステラはひと目で、この着ぐるみも相当の品だと感じた。


 背丈はオードリーより少し高いくらい。この着ぐるみの中身は子どもだろう。ステラはそう判断した。


「……父さん。ここが……?」

「ああ、そうだ。紹介しよう。俺の娘のケイトだ。ヴァンパイアの血が濃くてな、太陽が苦手なんだ」

「…………よろしくお願いします」


 ケイトがぺこりと頭を下げる。声は小さいが、良く透き通っていた。


「ご丁寧にありがとうございます、ヒールベリーの村のステラです……!」

「ディアぴよ!」

「マルちゃんだぞ!」

「冒険者のナナだよ、よろしく」

「よろしくお願いします…………」


 ケイトはそのまま、ゆっくりとディアとマルコシアスに近付いていく。

 そのまま無言で着ぐるみヘッドで籠を見つめる。


「……本当に喋ってるね……」

「ぴよ! あたしはしゃべるぴよ!」

「ディアちゃんが喋るのもそうだけど……マルちゃんはなんで、喋れるの?」


 じーっとケイトが着ぐるみの奥からマルコシアスを見ている。


「マルちゃんだから喋るんだぞ」

「……答えになっているような、なっていないような……」


 なおもじーっと見つめるケイトを、ヴィクターが抱えて移動させる。


「あうっ、父さん?」

「あんまりがっつくんじゃあない。怖がらせるだろう?」

「…………そうだね。ごめんなさい」


 頭を下げるケイトに、マルちゃんが手をぽふぽふと振る。


「気にしなくていいんだぞ。我に大いに興味を持って欲しいんだぞ」

「さすがマルちゃんぴよ!」


 ステラも感心したように呟く。


「心が強い……」

「ありがとう……。あとで、じっくり見るね……」


 ケイトが少し声のトーンを上げる。


「……とまぁ、俺も娘の勉強のために解説役として回るのだ」

「なるほど……」


 要はついでではあるが。

 しかし、コカ博士の知識は月刊ぴよで証明されている。娘たちの教育にはプラスだろう。


「僕はあとで見て回る――というより、地元だから大半のモノを知っているからね。行ってきちゃいなよ」

「……わかりました」


 ナナの言葉に、ステラが応じる。


「それでは案内お願いします、コカ博士さん」


 その言葉にコカ博士ことヴィクターが頷く。


「ああ、任せてくれ」

わふ。


ケイトは……コカ博士によく似てるんだぞ。

父上からすると姪になるんだぞ。


でも気が付かない……着ぐるみだから、なんだぞ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ・アイクリスタル討伐のささやかな礼 なんかとても効きそうな目薬っぽいんだよ! 二場面が並行展開だからテンポが落ちた気がしてしまうね~
[一言] 更新有り難う御座います。 ……何処の誰かは知らないけれど、誰もが皆知っている!? ……昭和のヒーローか!?
[一言] 展示側はイベント的には中の人ではありますが せっかく来たんだから他の展示も見たいわけです そこにこういう申し出があれば このビッグウェーブに乗らねばならないのです
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