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193.ステラの報告と日常

第九章『きたぴよ、はなぴよ。地獄の虎を迎え撃つ』開始です!

 家に戻ってまずはお昼ご飯だ。

 ディアとウッドが意気込んで作った、餃子とトマトの辛味炒めである。

 俺は果物ジュースとトマトジュースと、フルーツ盛り合わせを作る係だ。


 メインの餃子や辛味炒めはあんまり作るのを譲ってくれないのだ……。まぁ、いいけど。


 ステラは俺達が食事を作るのを、にこにこと見守っている。


「エルト様、ありがとうございます」

「長旅で疲れているだろうからな」

「はい……ありがたく思います」


 正直、あんまり疲れてはなさそうだが……。ナナの方が疲れてそうだな。

 だけど見た目ではわからないし。


 お昼ご飯の準備はすでにしてあったので、ぱぱっと出来上がる。


「できたぴよー!」


 この一週間、ディアの料理の腕前はぐんぐん上昇している。手際がどんどん良くなるのだ。

 餃子と辛味炒めについては、もう任せきりにしても大丈夫だろう。


「では、めぐみにかんしゃぴよー!」


 合図をするディア。

 かわいい。


 席についてご飯を食べ始める。

 うん、おいしい。


 じゅわっとした蒸し餃子に、ピリ辛のトマト炒め。

 しめきっているのでナナも着ぐるみ姿ではない。


「はぁ……おいしっ」


 ナナはほくほく顔でトマトジュースをがっと飲み、トマト炒めを食べまくる。


「トマト、トマト。トマトがあればいいけれど、トマトがないのは辛いもんだ」


 ナナの言葉にレイアも頷く。


「コカトリスのいないザンザスのようなものですね」

「……ちょっと違うけど、だいたい同じかな」


 あっという間に辛味炒めを食べてしまうナナ。

 ディアがナナを覗き込みながら、


「おかわりいるぴよ? もっとあるぴよー!」

「ありがとう。それじゃもっと頂こうかな」

「ウゴ、いっぱい作った!」


 よほどトマトがなかったのか、ナナはおかわりまで食べ始めた。


「懐かしい味だぞ。からっ、うまっ!」

「慌てちゃだめですよ、マルちゃん」

「そうぴよ! ごはんはにげないぴよ」


 ほのぼのした日常が戻ってきたな。

 エルフ料理を食べながら、東の国のことを聞く。


 途中で黒竜騎士団にでくわしたり、色々とあったようだ。


 ……もぐもぐしながら話を聞いて、バットの件でちょっと真顔になる。


「というわけで、しゅっしゅっと色々と教えてきたわけで……」

「側近ぽい人もいたね」

「みんな、必死にやってたぞ」

「…………」


 お、おう……。

 女王陛下も大変だったな……。


 ◇


 ご飯を食べ終わり、ナナとレイアは一旦帰宅した。

 あらましはわかったからな。

 帰って休んでほしい。


 マルコシアスとディア、ウッドはリビングで遊んでいる。


「ぐいーんぴよ……!」

「ぐいーん」

「ウゴウゴ……」


 仰向けになったディアが羽で子犬姿のマルコシアスを高い高いしてるな。

 なおディアの下にはウッドがいる。ウッドはディアを撫でていた。

 三段重ねというやつだ。

 とってもかわいい……!


 さて、家族の仲睦まじい姿で癒やされるのはここまでだ。

 俺はステラ達が持ち帰った女王からの書簡を開こうとしていた。


 書簡が入っているのは、黒塗りに金粉と銀粉をあしらった筒。もちろん高級品である。

 筒には女王の国の紋章――葉で覆われた大樹が描かれていた。これはエルフの国で多く使われてる植物系統の紋章だな。


「そういえば普通に受け取って持って帰ってきましたが……問題はなかったんですよね?」


 ステラが小首を傾げながら聞いてくる。


「ああ、そこら辺は問題ない。基本的に国は不干渉だからな。俺と東の国が付き合うこと自体、誰かに咎められる心配はない」

「緩いですね……」


 ここら辺は俺も勉強している。

 現代日本の考えだと、一領主の俺と外国である東の国の交流は問題がありそうな気がする。


 だが、この世界では領地の独立性が非常に高い。

 それぞれの貴族が勝手に外国と交際しても無問題なのだ。

 軍事的な付き合いでなければな。


「なになに……」


 書簡を広げて読み始めようとすると、ステラがすすっと隣に寄ってくる。


「……一緒に読む?」

「はい……!」


 にこーとステラが微笑む。

 ……いままでにない感じだな。やはり雰囲気が少し変わったかも。


 書簡の内容はステラの活躍に感謝するところから始まり、今後とも気兼ねなく訪ねてくださるように……というところだな。

 あとはちょこちょこ色々あるが、感謝の文面みたいなものだ。


 ふぅ、バットのクレームは特にないな。

 良かった。


「シュラーデンのように巡るままに空荷でも、御身を迎えれば子々孫々までの果報たるべし……か。随分とへりくだっているな」

「そうなんですか?」

「シュラーデンは東の国の聖者だな。神の代理人だったと言う……エルフの祖とでも言うべき人だな」


 日本だとヤマトタケルやスサノオ級の人物か。

 実在は怪しいが、これに比するというのは最上の扱いである。


「ステラはこういうのを習わなかったのか?」

「十歳で国を追い出されたので」


 ぽろっと言ったステラの言葉に、俺はぎょっとした。

 知らなかった。

 そういう事情があるとは。


「……その、ごめん」

「いいんですよ? もう、詮無きことです」

「いや……」


 俺にはわかる。

 実家を追い出される形でこの領地に来た、俺には。


 同じだったのか。

 ステラも国を……事情はわからないにしても。


 と、俺の右の頬をステラがつまむ。

 ふにっと。

 痛くはない。優しい手付きだ。


「ふ、ふてら?」

「……私より悲しそうにしてるので。それだけで十分です。嬉しいです」


 そう言うと、今度は左の頬もつままれる。


 ふにっ。


 両の頬をふにふに……。

 むぅ。これでは何も言えない。


「ぴよ、そろそろねむたくなってきたぴよ」

「我もー」

「おひるねするぴよ」

「ウゴウゴ、綿出すね」

「ありがとぴよ!」

「やっぱり兄上の綿が落ち着くんだぞ」


 向こうでは一通りスキンシップをして、お昼寝タイムになりそうだな。


「……ほれたちもお昼寝ふるか」

「そうですね、久し振りにそうしましょう」


 ぱっとステラが俺の頬から両手を離す。

 そうして、もぞもぞと家族全員で綿に入りお昼寝する。


 ゆるゆるだけど、今日一日くらいはいいだろう。


「しっとりマルちゃん、やっぱりいいぴよね」


 ディアはマルコシアスを抱きしめながら、頭をぐりぐりと押し付けている。

 なおマルコシアスもディアに顔を押し付けてるな。

 二人でぐりぐりしあってる。


 綿に入って少しすると、ステラが俺の頬にぷにぷにと触れてくる。


「んふー……」

「むぅ……」


 よほど俺の頬がいいらしい。

 よくわからんが……。


「ところで、女王からの書簡にちらっとあったのだが……」

「なんでしょう?」

「バットをたくさんありがとう、とあったんだけど……」

「ええ、三十本ほど置いてきたので」


 ……ふむ。

 女王もノリノリだったようだし。


 あれかな、地球でも同じ流れがあったような。

 いずれ野ボールの交流試合を申し込まれそうな気がする……。

お読みいただき、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
面白かった。 エルフ(長命種)にとっての10歳はまだオムツの年齢って作品もあるので、 ステラ10歳が人間年齢何歳相当だったかの補足はミスリード誘うのでなければ本話中に入れておいた方がよいと思う。 ク…
[気になる点] 「詮無きことです」 使い方合ってる?
[気になる点] ライオン 燕 と来て次は虎かぁ 鷹、鷲、カモメ、バッファローも出てくる予感!笑
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