178.特にそんなつもりではない
ヒールベリーの村にて。
午後、仕事を終わらせた俺とニャフ族は広場へと移動する。
空は晴れてきて、地面も問題ないな。
少し肌寒いが大丈夫だ。
そしてウッドとディアにも来てもらった。
「とおさまー!」
ダッシュで駆け寄るディアを抱き上げる。
ふわもこで柔らかい。
……最近はまた少し大きくなった気がする。
「「ウッド様がきたにゃー!」」
「ウゴウゴ……!」
ニャフ族から歓声が上がる。
やはりニャフ族との遊びといえば、好評なのはウッドの綿だからな。
俺達も日々、くるまって寝ているし。
「にゃーん、これだけ集まりましたにゃん!」
「……結構来てくれたんだな」
「いっぱいぴよね!」
「ウゴウゴ、ニャフ族がたくさん!」
三十人くらいのニャフ族が並んでる。
先頭にいるのはブラウンだ。彼がびしっとニャフ族に呼び掛ける。
「いいかにゃん、安全かつ楽しく遊ぶのにゃん!」
「「にゃー!」」
ニャフ族が一斉に尻尾をふりふりしながら、手を上げる。
かわいい。
「よし、それじゃウッド。よろしく頼む」
「ウゴウゴ! わかった!」
ウッドが右腕を出して構える。
これから【シードバレット】で綿をどんどん生み出すのだ。
「ウゴウゴ……それ!」
ウッドの掛け声と同時に、空へ向かって綿が勢い良く発射される。
ぽんっ!
ぽぽぽんっ!
ふんわり柔らかい綿が打ち出され、ニャフ族が目をきらきらさせる。
綿は空でちぎれながら、地面へと落ちていく。
それをニャフ族が急いで追いかけるのだ。
「「にゃー!!」」
いくつかの落下地点にニャフ族がダッシュで駆け寄る。
いつも通りの感じだな。でもそれが見ていても楽しい。
「ぴよ……! わたにむかってくぴよ」
「ニャフ族はボールとかも大好きだからな」
ちなみにかなりのニャフ族が、第二広場で野ボールをやってたりする。
打つよりか投げるのとキャッチする方が楽しいみたいだが。守備向きというやつだな。
マルコシアスもこんな遊びは好きそうだな……。
ディアがウッドの方を見上げる。
ウッドはいつも通りご機嫌に綿を打ち出しまくってる。
「ウゴウゴ、今度はこっちー!」
「「にゃー!!」」
そんな様子を見ているディアが振り向きながら言う。
「あたしもなげてみたいぴよ!」
「よし、わかった」
綿を打ち出す切れ目に、ウッドに近寄る。
「すまん、ちょっと綿をくれないか」
「ウゴ、はいどうぞ!」
ウッドの腕から静かに綿がもこもこ出てきた。
ディアを地面にそっと置いた俺は、綿を両手にかかえる。
「ぴよ! これぴよ!?」
「ああ、これをちぎって丸めて……」
そのまま投げると空気抵抗で全然飛ばないからな。
ボール状にした綿を持って、振りかぶる。
「それー!」
俺は言いながら、綿をふんわりと下手投げする。
「にゃ、小さな綿にゃー!」
「いくにゃー!」
目ざといニャフ族が俺の投げた綿を追いかける。
たのしい……。
「……とまぁ、こんな感じだ」
「ぴよ、やってみるぴよ!」
綿をディアの目の前に置く。
ぴよっとディアが羽をちょこちょこ動かして、綿をちぎる。
「ぎゅっぴよ、ぎゅっぴよ」
……ディアの羽は器用に動くんだよな。
フォークとかもきちんと持てるし。
深く考えたら負けな気がするから考えないけど。
「ぴよー! どうぴよ?」
ディアが丸めた綿を見せてくる。
完璧な出来栄えだ。
投げればきっと、ニャフ族も喜んでくれる。
「よくできてる、偉いぞ」
「ありがとぴよ!」
さらにディアの頭も撫で撫でする。
本当にディアはスキンシップが好きだからな。
これも大切なことである。
「よし、それじゃ投げてみよう」
俺もまたひとつ綿をちぎって丸める。
「ぴよ、したからこーいうふうになげるぴよ?」
「そうだな、色々と投げ方はあるが……これだとニャフ族も追えるし」
「なるぴよ!」
まずは俺から投げるか。
右手を伸ばして、ぽいっと下手投げ。
「にゃー!」
ニャフ族が俺の投げた綿を追いかける。
楽しそうだな。
「いくぴよー!」
ディアもぽいっと綿を下手投げする。
ふわっ……と綿はニャフ族の方にうまく向かっていく。
「にゃにゃー!」
これもニャフ族は追いかける。
「できたぴよ! ふんわりなげぴよ!」
「よしよし、完璧だぞ」
なでなで。
俺が撫でるとディアは羽をばたばたさせて喜ぶ。
かわいい……!
そうしていると、ディアがはっきりと言う。
「これでかえってきたマルちゃんともあそぶぴよよ!」
「そうだな……。それはいい考えだ」
マルコシアスと離れることで、少しディアの考えも変化しているな。
……餃子の件といい、この別れはうまく働いていると思う。
ちょっとずつ何かが変わり、成長する。
それは俺もそうだし――多分、皆そうなのだ。
◇
一方、スティーブンの村の近く。
ステラとナナ、マルコシアスは軽く整えられた道を歩いていた。
念の為、マルコシアスは人の姿である。
「ふぅ、いきなりの戦闘でしたね」
特に疲れは見せず、ステラはナナへと言った。
元々、村へそのまま着地するのは危険である。
多少離れた地点を目指すのは計画通りだったのだが……。
まさかのフラワー種のコロニーにぶち当たってしまったのだ。
「……魔物との遭遇はある程度、計算の内だよ。現に傷一つないけど……」
ナナはぶるりと震える。
ステラの力はある程度は知っているつもりだったのだが……それは甘かった。
ナナの脳裏にはさきほどの戦いの光景がはっきりと刻まれている。
フラワーアーチャーの弾を構えたバットで打ち返すステラの姿が。
そして打ち返された弾で、倒されるフラワー種達……。
もちろんナナにとって、フラワーアーチャーやスナイパーは遅れを取る相手ではない。
距離を取って魔法具を繰り出せば、数百体くらい訳なく倒せる。
問題は速度。
現役Sランク冒険者の自分より、ステラは数倍の速さでフラワー種を倒すのだ。
ライオンの騎士は初見の敵……。
だけどよくいるフラワー種との戦いで、これほどの差が出るとは思ってはいなかった。
ちなみにマルコシアスは離れた所で応援していたのだが。
「終わったからさっさと離れたけど、余計な歓待は不要だ。僕達はただの通りすがりの冒険者という設定なんだから」
「ええ、そうですね……。明日もばびゅんして行かないとですし」
そんなことを話しながら、ステラ達はスティーブンの村へと辿り着いた。
山あいにしてはかなり豪華な建物が並んでいる。
そーっと道を歩きながら、ナナが言う。
「今日はここで一泊だ。トマトがあればいいけど」
と、マルコシアスが反応する。
くんくんと匂いを嗅ぐように……。
「んむ……?」
「どうしました、マルちゃん?」
「これはこの前、村で会った人達の匂いだぞ」
そう言うと、建物の向こうから黒い鎧を着込んだ騎士達がやってくる。
見覚えのある人達。黒竜騎士団だ。
「あっ」
「まずっ」
ステラとナナが同時につぶやく。
まさかここで鉢合わせになるとは、思ってもみなかった。
だが、黒い騎士達はステラ達の前に来ると、ひざまずいて敬意を評した。
村人も集まって、同様にひざまずく。
そして先頭のマッチョな騎士、ラダンがうやうやしく言う。
「ようこそ、お出でくださいました。我々の代わりに魔物を倒してくれたそうで……!」
お読みいただき、ありがとうございます。