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164.お勘定

 翌朝になった。

 今日は売上集計の日だ。

 おおまかな数字はお祭りの間毎日聞いていたが、今日で色々と確定する。


 観光客が満足していたのは、顔を見ればわかる。

 だが実際にどれだけ売り上げたかはちゃんと計算しないとわからない。


 あとは商談がどれほど来たかだな。

 お祭り期間中は見本市みたいなものだった。

 本当に興味のある商人は名刺を置いていく。


 日本とは違いその場で交換する文化はないが、連絡先がわからなければ取引もできない。

 裏を取る必要はあるが、名刺の数と質が成功の指標となるのは間違いない。


 寝床から起きて、ステラと微笑み合う。

 結局手は繋いだままだったな。

 ……ステラは結構、スキンシップが好きなのかも。

 覚えておこう。


 朝ご飯を食べて身支度をして、俺とステラはナールの元に向かう。


 村は今日から本格稼働だ――片付けを終えてからだが。

 とはいえ、それほど忙しいようには見えない。

 年末年始がすぐ来るからな。


 冬至祭がお祭りとしたら、年末年始は休養である。

 この期間はどこも仕事は休みになり、家でのんびりする。


 必然的にかなりの仕事が止まるのだ。

 お祭りの反動というのもあるかもだが……。


 ナールの事務所では、たくさんのニャフ族がすでに働いていた。

 銅貨、銀貨、金貨を選り分けたり売れた品物の統計を出したり……。


 ちなみに薬師代表としてアナリアもいる。

 薬師側はあまり商品もなかったので、すでに集計は終わっているのだったな……。


 ポーションはまだ貴重で、おいそれと拡販はできない。

 主に森で取れた素材やらが商品だったはずだ。


「おはよう、ナール」

「おはようございます……!」


 俺とステラに、一斉に挨拶が返ってくる。


「おはようございます!」

「おはようございますにゃ!」

「「おはようございますにゃん!」」


 そして席につく。

 なんとなくだが、俺もニャフ族をわかってきた。


 しっぽがゆらゆらと揺れているときは、上機嫌な時だ。

 コカトリスに抱きついてたりした時もそうだったからな。多分、間違いない。


 つまりちゃんとした数字でもお祭りの結果は悪くない、そういうことだろう。


「よし、まとめた報告を聞こうか」


 ◇


「まず人数としては、お祭り期間中におよそ四千人が来られましたにゃ」

「人口の二十倍以上か……」


 もっともこの数字には、オードリーやクラリッサ等の子どもも含まれているはずだ。

 後はちらっと立ち寄った人だけの人も含まれている。

 だが約一週間の数としては、かなりのものである。


「宿が足りないなどの混乱はなかったはずですが、かなりの人数でしたね」

「植物魔法でお手軽に増やせるとはいえな。これ以上の客を迎えるなら、さらに宿泊場所を増やす必要があるか……」


 ヒールベリーの村は野菜ならたくさんある。

 水も湖からたくさん引いてこれるので、その点は恵まれている。


「売上はまだ集計中ですにゃ、でも金貨にしてだいたい五百枚ほどですにゃ!」

「ザンザスの平均賃金を考えても、まず高水準かと……!」


 ナールとアナリアがぐぐっと身を乗り出す。

 金貨五百枚……現代の価値観としては一億円に近いか。

 一週間、二百人総出と考えればかなりのものだ。


「頑張った甲斐があったな。皆、本当にお疲れ様だった」

「ありがたきお言葉ですにゃ!」

「身に余る光栄です……!」

「売上は事前の取り決め通り、他へ渡す分を取り除いたら分配するように」

「はいですにゃ!」


 ザンザスや黒竜騎士団には世話になった。

 この二つへは送金しなくてはいけない。


 後は役割に応じて分配率は決めてある。

 自分のスキルを活かした出店で売り上げた人は、かなりの現金を手に入れる。

 じゃがバターを売ったイスカミナだな。


「しかしよろしいのですかにゃ? エルト様の分まで分配してしまって……ですにゃ」

「そうです。ザンザスとの提携も宿もエルト様のおかげ。正当な取り分まで……」


 ナールとアナリアが心配するが、大丈夫だ。

 普段から税の収入はあるし、このお祭りは皆の協力なしにはできなかった。


 俺の取り分は正当かもしれないが、そこまで必要ない。

 必要なのは今後の成長と展望。

 それがあるなら、目の前の金貨は分け与えても差し支えない。


「気にするな。今後も冬至祭では俺の分はいらない。その代わり、存分に盛り上げてくれ」

「にゃ、ありがとうございますにゃ!」

「まさに太っ腹ですね……!」


 ……なんだかストレートに褒められると照れてしまう。

 ちなみにステラもふんふんと頷いている。


 金銭を重視しないのはステラもだな。

 バットを振るう方が楽しいみたいだし……。

 その辺りは似ているのかもしれない。


「何人かここに拠点を置きたいという商人もおりますにゃ。人口も増えると思いますにゃ」

「豊富な食料とザンザスとの関係がありますからね。ザンザスでお店を開くのはお家賃が高くて、大金が必要ですし……」

「この村からなら、ザンザスへも容易だな。そういう商売人を取り込めれば、利は大きいだろう」


 その後は入手した名刺の選り分け、冒険者ギルドの開店についてだな。


 さらにステラの里帰りも報告した。

 ……出自は秘密に、ということなので単に東の国へ行くとだけ伝える。


 最後にホールド兄さんの案件だな。

 まだ未確定ではあるが、準備はしておこう。


 この件を話すと、ナールもアナリアも驚いたみたいだな。


「にゃにゃ……ホールド様の芸術サロンと言えば、かなり有名ですにゃ」

「ええ、ザンザスにいた頃はそこそこ耳にしましたよ」

「ふむ、どんな話だ?」

「貴族の力をバックに、かなり手広くやっているそうですにゃ。特に北部では結構な勢いでしたにゃ」


 そういえばナールは北部の出身だったな。

 だからヴァンパイアの国との協力を思い付いたのか。


「庶民の娯楽のうち、演劇の割合は大きいですからね。役者や脚本家の移籍とか話題になります」


 この世界における演劇関係者は、いわば前世でのトップスターや有名映画監督みたいなものだ。

 他にそういう娯楽がないからな。


 魔力がなくても爵位が欲しいなら演劇に行け、とさえ言われている。

 記録媒体の乏しいこの世界では、偉業や教訓は口伝えか本か演劇しかない。

 そのためどの国でも、優秀な演劇関係者には名誉と金を惜しまない。


「芸術関係は貴族のつてがないと、入り込むのは難しいですにゃ」

「まぁ、俺も兄の人脈だが」


 その言葉にナールは少し身を乗り出した。


「にゃにゃ。芸術には評判がありますにゃ。親兄弟でもそう簡単には入れさせないはず……ですにゃ。これはホールド様がエルト様をそれだけ見込まれているということですにゃ」

「なるほど……」


 もしかしたら、あのステラの劇やこの村を見てそう考えてくれたのかな。

 そうだとすれば、これもまた得難い機会と言えるだろう。


「これもひとつひとつ、しっかりとこなされているエルト様だからですにゃ!」

「はい、このお祭りでさらに弾みをつけられますし……!」

「……そうか、ありがとう。そう言ってもらえると俺も嬉しいよ」


 こうしてお祭りの後の話し合いは終わった。

 よしよし。

 また色々と動き出しそうだな……。


 やるべきことは多いが、実に楽しい。

 ナールの家を出た俺とステラは微笑みあった。


 前向きな言葉と結果は、何よりも力になる。


「次はどういたしましょうか?」

「そうだな……。テテトカ達の様子を見に行くか。労いもしたいしな」


 カタログを渡してきた返事も聞きたいし。

 それに草だんご祭りがどうだったかも確かめたい。

 このお祭りは半分、ドリアード達のお祭りでもあったのだから。

お読みいただき、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 何ヶ所かイスカミナが祭りで焼き芋をやってたって書いてあるけどイスカミナが祭りでやってたのは、焼き芋じゃなくてじゃがいも(バター)じゃないか?
[気になる点] 結局 エロエロ展開にならなかっんだね ステラ相手だと下手したらぶっ飛ばされて再起不能になるかもと慎重なのかエルトがヘタレなのか
[一言] 結果発表おおおおおおおお というか決算とその監査は大事 そんな大袈裟なもんではなく若干緩いですけど あと大雑把な論功行賞と今後の予定や展望 ひと山越えてできる事やるべき増えて いつまで村…
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