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150.総立ち

 ウッドが持っている蘇生ポーション。

 それを見て、マルコシアスが声を張り上げる。


「ほう、そんなものを持ち歩いていたのか……!?」

「――っ! 邪魔はさせません!」

「おまえの相手はこの俺だ!」


 ララトマの氷の魔法とハットリの逆立ち玉乗り剣術が、マルコシアスへと襲いかかる。

 それをマルコシアスはステップしながら回避した。


「ウゴ……これは家宝のポーション。私はあなたに一度、すくわれた。今度はわたしが、あなたを救おう」

「……ぴよ」


 生気の抜け落ちたかのようなディアの演技。

 ふむ……良い演技だが、なんだろう?

 どこか、今のディアの演技には見覚えがある。


 うーん?

 何か、引っ掛かるんだよな。


 …………ああ!

 あれだ、寝起きのステラだ!

 あの時のぬぼーっとしたステラの雰囲気に似てるんだ!


 なるほど、ディアはあの時のステラを参考にしたのか……。

 ……ステラも多分、全く気付いていないだろうが。

 似てる、どことなく……。


「ウゴ……さぁ、これを飲んで」


 ウッドが小瓶をディアの口に当てる。

 口移しの演技をするバージョンもあるが、それはなかったか……。


 この辺りは情感たっぷりに演じるように。

 確かそう書いてあった。


「……ごくっごくっ、ぴよ……」


 こうしてポーションがディアに使われる。

 合わせて、楽隊がどんどんとアップテンポで音楽を奏でていく。

 この隙にドラゴンや炎の特殊効果は舞台から去っていくのだ。


「ぴよ……わたしは……!?」


 ディアがむくりと顔を起こす。


 ジャジャーン!


 威勢よくシンバルが鳴る。


「……あなたは……。そうすると、わたしは……ぴよ」

「ウゴ、あなたは死に瀕していた。でももう大丈夫……!」

「その手に持っているのは……わたしのために……ぴよ」

「気にしないでください、わたしはやるべきことをやったまで……ウゴ」


 すくっとステラが立ち上がり、勇ましくマルコシアスへと向き合う。

 観客はまたも大盛り上がりだ。


 ステラは「私が……生き返った!」とか言っているけど。

 まぁ、そうとしか言いようがないよな。


「おのれ甦ったか、死に損ないが。また地獄へと送ってくれる!」

「ウゴ、そうはさせない!」

「わたしは……まちがっていた。もう、ひとりじゃないぴよ!」


 ステラが加わり、正真正銘最後の戦いになる。

 ここからは、集大成と言っていい。


「はあああっ……ぴよ!」


 気合いを放ち、ディアがぴょーんと飛びかかる。

 この復活したステラは、最初のステラより活力に満ちていなければならない。

 より激しく、生命の躍動感を表現する。


「ぬぅ、この動きは……!」


 マルコシアスが初めて焦る。

 そう、ディアは単に復活しただけではない。


 ウッドが踏み込むとそれをフォローするようにディアが動き、ディアが前に出ると横をウッドがカバーする。


 要は、連携だ。

 それぞれ舞っていたのが、青年貴族と従者とステラが一体となってゆく。

 それが力となって、マルコシアスを追い詰めていく。


「馬鹿な、この連中のどこにこんな力があったと言うのだ?」

「ははは! これが人間の強さってやつだ!」

「そうです! あなたの動きも段々と見えてきましたよ!」


 加速して行く人間達に対して、マルコシアスの舞いは少しずつゆっくりになる。

 さらにニャフ族の皆さんが時々、マルコシアスの鎧のパーツを持っていく。


「ウゴ、マルコシアス……はぁ、はぁ……終わるのは、おまえのほうだ!」

「ひとりより、ふたり。ふたりよりみんなのちからがあればぴよ!」


 ディアがくるくると舞っている。

 誰よりも早く、ぴよぴよしている……。


 バットを持ちながらなので、かなりハードだ。

 でもしっかり、舞台を駆け回りながらやっている。頑張っている。


 ウッドもマルコシアスも……もちろん他に演じてくれているララトマやハットリもだ。

 レイアやブラウン、アラサー冒険者、ニャフ族の皆や、楽隊の人達も――たくさんの人がひとつの劇を織りなしている。


「うぐっ、我に敗北という言葉はない!」

「ウゴ、それなら……今日知るがいい!」


 マルコシアスが舞台中央に立つ。

 それをディアが右手に回り、ウッドが挟み込むように左手に立つ。

 いよいよ、この一撃で終わる。


「せやああ……ぴよ!」

「ウゴ……おおおおっ!」


 タイミングを合わせて、舞台中央のマルコシアスへと飛びかかる。


「うおおおおっ!!」


 ウッドとディアが交差し、マルコシアスから鎧が剥げ落ちる……。ニャフ族がぱっと取り外したのだ。


 膝をつくマルコシアス。

 後ろの観客は固唾を飲んで見守っているようだ。


 マルコシアスが力を振り絞って叫ぶ。


「これが人の力と言うのか! 我が持ち合わせない、力とでも!」

「ウゴ……そうだ、マルコシアス。おまえは強い。でも、ただ一人強いだけ。おれには皆がいる」

「……ぴよ……」


 ディアがウッドを熱い視線で見つめる。

 まぁ、劇中のステラもこれで憎からず思う……という流れだ。


「……そうか……我の敗因は、それか。ふははは……いいだろう。認めよう、この心地よき敗北を。与えられた滅びの時を!」


 マルコシアスがバットを杖がわりに立ち上がる。


「魔王を倒すというのなら、やってみるがいい! 地獄の底で、おまえ達の行く末を見定めよう!」


 ジャジャーン!!


 耳をつんざくほどのシンバルが鳴り響く。

 そうすると――マルコシアスはどっと仰向けに倒れる。


「……ウゴ、勝った……」

「いいえ、まだ……これははじまりぴよ」

「ウゴ……そう、だな。まだ魔王がいる。まだ戦いは続いていく」

「…………」

「どうだろう、一緒に来てくれないか。俺たちなら、魔王を倒せる。そんな気がする……ウゴ」


 ウッドに続いてララトマとハットリも言う。


「……私からも是非に。あなたの力はとても素晴らしい」

「ははは! あんたが来てくれりゃ、こんなに心強いことはない!」


 そう言うと、ディアが一歩前に出る。


「……ありがとう。ぜったいにまおうをたおしましょうぴよ!」

「ウゴ……。この剣にちかって!」


 ウッドがバットを高々と掲げる。

 身長二メートルの彼がそうすると、とても見映えが良い。


 そしてニャフ族の皆さんが、舞台の横から布を被せたついたてを持ってくる。

 幕がないからな……こういうので区切るしかないわけだ。


 舞台が完全に隠れた後、ついたての前に立つレイアが静かな口調で締めくくる。


「……こうして、青年貴族とステラは心を通わせ魔王討伐へと向かうのでした!」


 パチパチパチ!!


「うおおっ!!」

「面白かったー!」


 振り返ると、観客は全員総立ちして拍手を送っている。

 まさにスタンディングオベーションだな。


 俺とステラも立ち上がり、惜しみ無い拍手を送る。

 ……凄い。成長したな。


 隣を見ると、オードリーとクラリッサ、ナナやヤヤは立って拍手を送っている。


 ホールドは……座ったままか。

 いや、ぐっと席を掴むと立ち上がった。


「エクセレント!!」


 評論家の眼差しのまま、彼はそう賛美した。


「エレガント……! 型破りで、面白い!」


 彼は俺に向かって、そう言った。

 その瞳と言葉に嘘はないように見える。


「誰もが頑張っていたが……特にマルコシアス役の少女は明らかに才能がある。不思議だ、あの若さでマルコシアス役は相当難しいはずだが」


 ぎくっ。


 ホールドが拍手を止めずに批評する。

 ステラ役のディアだったり、アクションだったり。


 大抵は誉めてくれた。

 バットはちょっと前衛的すぎたみたいだが……。


 でも、なんだろう。

 村の皆が作り上げた劇を兄に誉められて、俺は……とても嬉しかった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] う~む。普通に泣ける。 芝居の高揚感とか、終わった後の喝采とか泣ける。 みんなおつかれさま。
[良い点] エクセレント! まさしくそれ。 みんなの力で劇は大盛況だ! 舞台シナリオで伝えたいことの通りにみんなの力が素晴らしかった!
[良い点] >>さらにニャフ族の皆さんが時々、マルコシアスの鎧のパーツを持っていく。 劇的にも表現的にもおかしい所は無いのに、この字面だけで想像すると中々にシュール(笑) それか、KAWAIIという…
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