144.草だんご祭りの後に
草だんご祭りにも終わりが来る。
条件はひとつだけだが。
テテトカのお腹がいっぱいになったら、お開きである。
「ふぃー……」
トンテンカントン……。
もうドリアードの皆はお腹は満たされたようだな。大きくなったお腹をさすったり、まったりしてる。
「ぴよー」(たべたー)
「ぴっぴよー」(ねむねむー)
コカトリス達も寝そべっている。
ゆったりぴよぴよしながら、山盛りになっていた。
かわいい。
そして、テテトカのドラムの音が止まる。
一息付くとテテトカは立ち上がり、皆を見回した。
よく澄んだ声が広場に響く。
「みんな、食べたー?」
「「食べたー!」」
「じゃ、おわりー! ご馳走さまー!」
「「ご馳走さまー!」」
「「ぴよー!」」(ご馳走さまー!)
テテトカがそう宣言すると、割れんばかりの拍手が起きた。
俺とステラも拍手していた。
観客も大いに盛り上がってくれたようだ。
最初とは大違いの反応だった。
「いやー、なんだか凄かったね……」
「あの緑のお菓子、おいしそうだな」
「コカトリスはあんな風に踊るのか、いや眼福だったわい」
ふむ、感触はとても良い。
成功だな。
音とダンスと食べること。
やったことはそれだけだったけど、十分だった。
ドリアードとコカトリスが幸せなのが、見ていて強く伝わってきたからだ。
ちゃんと観客の心を動かした。
テテトカが座り直すと、舞台の袖からレイアが現れる。
「えー、では! まだテーブルには草だんごがありますね。余った草だんごは皆様にこれから配ります! 希望者はぜひ並んでください~!」
うおおおっ!
観客から、さらに歓声が上がる。
まぁ、そうだろうな。
俺だってずっと食べているのを見て、お腹が空いてきたんだ。
目の前でおいしそうに食べてたら、そりゃ食べたくもなる。
「……エルト様、私も少し……」
ステラがちょっとうつむきながら、物欲しそうにしていた。
わかる。俺もそうだし。
「俺も食べたくなってきた。せっかくだから一緒に貰ってくるか」
「……! はいっ!」
「後はテテトカやアナリアも労わないとな。よくやってくれたし」
草だんごは食べたくなった時が食べ頃。
確かテテトカはそんなことを言っていた。
それは実に良い言葉だと、俺は思う。
◇
広場から草だんごをちょっと貰い、俺達はごった返す広場から少し離れた。
舞台の裏側にあるテントでテテトカ達は休んでいるはずだ。
そこに向かおう。
観客達も草だんごをおいしそうに食べている。
ちなみに出店でもお土産用の草だんごとか、草だんごに合う飲み物が売っていたりする……。相乗効果があれば儲けものだ。
舞台裏のテントでは予想通り、テテトカとララトマとアナリアがひと休みしていた。
こぢんまりとしたテントにテーブルや椅子があるだけだが……。
ララトマは仰向けになって、テテトカに膝枕してもらってるな。
それをテテトカが愛おしそうに撫でている。
「お疲れ様、見ている人もとても盛り上がっていたよ」
「素晴らしかったです……!」
俺達が声を掛けると、テテトカがにまーっと微笑む。とても上機嫌のようだな。
「おかげさまで、こっちも楽しかったよー。何百年振りかな、こんなに盛大にお腹いっぱいになったのは。ララトマはー?」
「わたしもエンジョイしましたです……! アナリアには勝てなかったですけど!」
それは体格が違うからな。
頭ひとつ以上、アナリアの方が大きいし……。
でもそのチャレンジ精神は見習うべきなのかもしれない。
アナリアはなんだか考え事をしてたみたいだが、
「私も楽しかったです。そして、多分なんだかレベルが上がりました……!」
「えっ?」
俺が首を傾げると、アナリアから説明があった。
草だんご祭りの最中に【ドリアードの力】が確かに強まった感じがした、と。
頭の中に言葉が浮かんできたらしい。
「なるほど……」
「へー、そんなことが起きたんだー」
「ある意味、当然ですかね……? アナリアほどドリアードと一体になった人はこの村ではいませんし」
「さすがライバルのたべマスターです……! それくらいは……」
「むぅ、暴れちゃだめー」
よしよし、とテテトカがララトマの頭にある黒薔薇を撫でる。
テテトカはララトマを結構甘やかすんだな……。
だがアナリアの話はかなりの発見だ。
まさか【ドリアードの力】が向上するとは……。
そしてアナリアが盛り上がってるな。
「……感じます。森と大地の息づかいを……!」
「そうなのか、凄いじゃないか……!」
「えー? そんなの感じないけどなー」
「……あっ、はい……」
ばっさりだな。
でもララトマが補足する。
「テテトカおねーちゃんは、別個に感じてるのではなくすでに一体なんです……。 森と大地そのものに近いです! わたしはまだそこまで行かないから、森と大地の息づかいをアナリアと同じく感じますですよ!」
「そうなんだー」
「そうなんです!」
「そうだったかもー? 忘れたー……」
「スケールが違う……! これがドリアードの長!」
アナリアがなんだかキラキラした目でテテトカを見ている。
アナリアは技能がある人間が好きだからな。
ある意味、テテトカはその極致にいるわけだ。
しかし、レベルアップの条件を確定させるのは難しい気がする。祭りそのものが条件だとしたら、そう簡単に開催はできない。
なにせ今回はドリアード全員が揃って、草だんごも十分な在庫を作っていたのだ。
それにたべマスターも関係してるかも……。
「その辺りはおいおい考えるか……。ちなみにたべマスターになるには、どうすればいいんだっけ?」
「わたしに草だんごの食べ比べで勝てば、たべマスターになれますですよ! 誰でもウェルカムですが、でも今日はもう勘弁です!」
「やはりそうか……」
「……まさか、エルト様?」
お祭りが終わってからだが、検証する価値はあるかもしれない。
「とりあえず後日、テテトカの隣で草だんごを食べてみるか……」
「いいですよー、草だんごを食べるのは歓迎ですからー」
そんな風に話をしていると、テントの外から呼び掛けてくる声がした。
「失礼、エルト様はこちらにおります?」
「ナナか。ああ、大丈夫だぞ」
声の主はナナだった。彼女はぬっとテントに入ってくる。もちろん着ぐるみだ。
夜なら軽いホラーだな。まぁ、夜だとナナは着ぐるみを着ないだろうが。
ナナはテントに入ると、俺に近付いて耳打ちしてくる。
「さっき、村の入口に馬車が来ました。ホールド一家です」
……来たか。
思ったりよりも早かったな。
そう言えばもうしばらくしたら、劇が始まる。劇と兄一家……。ふむ、劇だな。
村を案内しながら、広場に連れてくればいいか。
ホールドは芸術に強いようだし、一緒に劇を見るのも一興だろう。
「わかった……。行こう」
はてさて、どうなることか……。
領地情報
地名:ヒールベリーの村
特別施設:冒険者ギルド(仮)、大樹の塔(土風呂付き)、地下広場の宿
累計お祭り来訪者+421人(ホールド一家、その他たくさんの観光客)
総人口:208
観光レベル:C(土風呂、幻想的な地下空間、エルフ料理)
漁業レベル:C(レインボーフィッシュ飼育、鱗の出し汁)
牧場レベル:C(コカトリス姉妹、目の光るコカトリス)
魔王レベル:E(悪魔マルわんちゃん)
お読みいただき、ありがとうございます。