135.一段落
それから――なんだかんだ言って、劇の出演者は多くなりそうだった。
俺の家で劇の練習を続けるのも無理がある。
アクション部分もあるしな。
なのでレイアとハットリを加えてからは、地下広場を使って練習することにする。
あと追加の出演者として、もう一名の参加が決まった。
「ララトマです、よろしくおねがいしますです!」
「よろしくぴよよー!」
なんと歩いていたらララトマから声をかけられたのだ。
もちろん断る理由はないし、参加してもらうことにした。
「なんだか面白そうでしたので!」
「そうぴよ、おもしろいぴよ!」
……割りと深い意味はないみたいだが。
逆にそういう方がいいのかもな。
そして配役はこんな感じだ。
ステラ役、ディア。
青年貴族役、ウッド。
その臣下、ハットリ・ララトマ。
マルコシアス役、マルコシアス。
監督、レイア。
「素晴らしい劇にしてみせます!」
「大丈夫なのか……?」
「大丈夫です!」
レイアが胸を張る。
正直、俺は演劇の経験がない。ステラもそうだな。後は野となれ山となれなのだ。
地下広場は通路に板を敷き詰めたりしている。当面はここで練習だな。
追加の発光魔法具もすでにセットされている。豆電球みたいなやつだ。
光量は十分、支障はない。
「……とおさま、ひとつおねがいがあるぴよ」
「ん? どんなことだ?」
「バットがほしいぴよ。にほん」
「……お、おう……ど、どうして?」
「ぶきにするぴよ! おにいちゃんとマルちゃんようぴよ!」
「……なるほど……」
劇の設定だと青年貴族とマルコシアスは剣を武器にする。
臣下の武器はまちまちだが、剣以外に被らないのが良いとされる。
だがバットか……。振り回すと危ない気もする。
「うーん……じゃあ、これで……」
俺は魔力を集中させて、手の中にバットを生み出す。ただし材質は違う。
すかすかの紙仕様。
段ボールのバットが二本である。
安全安心の子ども向けだ。
「危ないから、これで……」
「ぴよ! かるいぴよ!?」
「人に当たっても大丈夫だから……」
「ありがとうぴよ!」
段ボールのバットを両手に持って、ディアはててーと走っていく。
ディアにとっては、材質はなんでもいいらしい。
良かった……。
「あれなら怪我の心配もありませんね」
「他の武器も、出来るだけ危なくないやつで頼む」
「紙の剣もあったのですが……」
「……ステラ的にはバットが良いみたいだからな。普及のためだと……」
俺がしんみり言うと、レイアが頷く。
「さすがステラ様ですね。野ボールの宣伝まで兼ねておられるとは」
いや、多分意地になってるんだと思うんだけど。せめて野ボールくらいは有名にしたいという……。
見るとディアはしゅっしゅっ、と紙バットを振るう。軽快だ。
「かるくて、ふれるぴよね!」
「我も振れるぞ!」
「わたしも振ってみたいです!」
「どうぞぴよよ!」
「ウゴウゴ、しっかりにぎって……」
まぁ、体力のないマルコシアスは本物の重いのより模造品の方がいいだろうな。
練習の間にばてるかもだし。
「じゃあ、悪いが後は任せたぞ。必要なものがあれば準備するから」
「はい、お任せください!」
もはやどんなカオスになるのか、想像もつかない。
学芸会だから、それはそれでいいんだが……。もう俺に出来るのは、仕上がりを天に委ねることだけだ。
◇
俺は坂を登り地下広場を出て、地上の広場に向かった。
ここがお祭りのメイン会場になる。
劇の舞台と草だんご祭り、生ぴよ握手会と出店だな。
今はステラやナール達がテーブルをいくつか持ち込み、打ち合わせをしているところだ。
ステラの日曜大工とパワーはこういう設営の時に強いからな……。
「あっ、エルト様。どうでしたか……?」
「士気は高いな。まぁ、大丈夫だろう」
「そうですね、やる気なら……」
「……バットは紙製にしたからな。あしからず」
「うっ……すみません。そうですよね、劇で振り回すのは……」
「そういうことだ。でも気にするな」
自分が劇の題材になるのは、名誉とも言えるが……ステラは劇作者とはノータッチだからな。
いきなり架空の登場人物と架空の出会いを劇にされても、俺も呆然とするだろうし。
俺は静かに微笑む。
「劇がカオスになっても……いざとなったら、ハットリがなんとかしてくれるさ」
「ひどいですにゃ……」
「着ぐるみのまま逆立ちしてたんだぞ。あれをうまく使えば、大盛り上がり間違いなしだ」
「うう、私を題材にした劇の行方は着ぐるみに託します……!」
「こっちもですにゃ!?」
「プロの冒険者だから、きっと何とかしてくれる……」
熱い押し付けである。
でもちょっと見てみたい。本気の忍者アクションとか……着ぐるみだけど。
「んにゃ……。劇の方はいいとして、会場も作らなきゃですにゃ。やはり大枠はエルト様に頼ることになりますにゃ」
テーブルの上に広げられた紙には、設営案。
まぁ、いまから舞台だとか持ってくるのは大変だからな。
その辺は織り込み済みである。
「必要数を算出してくれ、俺が魔法で作ろう」
「ありがとうございますにゃ……! こういう突然のイベントでも植物魔法はとっても便利ですにゃ」
椅子もテーブルも、現物が目の前にあれば増やせるからな。
舞台のように大掛かりなのはイメージが足りないが、板なら作れる。切って組み立ててもらえば大丈夫だろう。
「あとは追加で人を雇いますにゃ」
「ドリアードの人口も増えたしな……。野菜の生産量はアップするけど、さばいて売る人がいないとな」
「宿も作りましたからね……。増やし時でしょう」
地下広場の宿はなるべくなら、恒久的な商売にしたい。あの光る苔の空間は好きな人もいると思うのだ。
そのためにも人は増やしていかないとな。
しかし先んじて動くのはさすがだ。
やはり商会の経営者だけはある。
「ちなみにどういう人を増やそうとしているんだ?」
「親戚や北の方で募集をかけてますにゃ。おなじニャフ族ですにゃ」
なるほど、そりゃそうか。
この世界では人の縁というのが非常に大きい。
「ナールは商会でもよくやってくれてるからな。信用してる」
「ありがとうございますにゃ! 動ける人間から徐々に集まると思いますにゃ。よろしくお願いしますにゃ」
「こちらこそ。一緒に村と祭りを盛り上げていこうな」
冬至祭は三週間後だが、実際には前後三日間くらいはお祭り期間になる。
これはこの世界の交通事情のためだな。
馬車や馬が主流で、雨が降ると足元が悪くなって遅くなるからな。
そのため観光地ではアバウトに始まるのだ。
そしてお祭り用に用意したのがなくなったら、なんとなく終わりになる。
ザンザスだと大体そんな感じらしい。
この村でも同じようになるだろう。
ホールドも来ると手紙に書いてあったが、現代と違って何日の何時とかそういう待ち合わせはない。
ざっくり冬至祭に合わせて来る、というくらいだ。
いつ来てもいいようにしておかないとな。
そんな感じでバタバタと二週間が経過した。
秋というよりはもう冬。
雪はめったに降らないらしいが、寒くはなっている。
いよいよ、コカトリス祭りが目前に迫っていた。
領地情報
地名:ヒールベリーの村
特別施設:冒険者ギルド(仮)、大樹の塔(土風呂付き)、地下広場の宿
領民+15(ニャフ族のみなさん)
総人口:208
観光レベル:C(土風呂、幻想的な地下空間、エルフ料理)
漁業レベル:C(レインボーフィッシュ飼育、鱗の出し汁)
牧場レベル:C(コカトリス姉妹、目の光るコカトリス)
魔王レベル:E(悪魔マルわんちゃん)
コカトリス祭り準備度
75%
草だんご祭り完了
地下広場に宿設置
エルフ料理の歓迎(トマトの辛味炒め、蒸し餃子、杏仁豆腐)
ディアの劇(着ぐるみコカトリスedition&紙バット)
冒険者ギルドのデザイン完了
設営案&新しい人手
お読みいただき、ありがとうございます。