126.コカトリスと草だんご祭り
レイアとの話し合いを終えて、早速コカトリスの宿舎に向かう。
とにかくコカトリスに了承をもらわないと、この話は進まないからな。
向かうのは俺とステラ、ディアとレイアの四人だ。
生ぴよ握手会。
言葉選びのセンスはアレだけど、発想は良い。
歩いていると、いよいよ寒さも強まってきたのを感じる。
とはいえ前世の日本に比べると、大分過ごしやすいが。
念のために一枚重ね着すれば大丈夫なのだ。
聞けば冬の一番厳しいときに、やっと暖炉を使うかどうからしい。
雪もめったに降らないため、やはり平均的に暖かいのだろうな。
宿舎に到着すると、コカトリス達がブラッシングをしていた。
全員がブラシを持ち、輪になって目の前のコカトリスの毛並みを整えている。
「ぴよ、ぴよー」(いいですねー)
「ぴよよぴよー」(ツヤがでてますねー)
「ぴよ、ぴよー」(わたしなんてまだまだですよー)
ほのぼのとした光景だ。
というか、手間いらずだな……。
いや、違うのか。
本人達にやってもらった方が納得するのかもしれない。センスはそれぞれだからな。
レイアがうっとりしながら呟く。
「はぁ……私も混ざりたい……」
「コカトリス達が戸惑うから、やめてさしあげろ」
終わるのを待ってから、ディアを通訳にコカトリス達と話をする。
身を乗り出して熱心に聞いてくれているな。
「「ぴよぴよー!」」
「いいともー! だそうぴよ」
「……ずいぶんあっさりだな」
「エルト様、コカトリス達はスキンシップ大好きですから……。ザンザスの子達も、もふもふしたりさせたりしてくれますし」
「コカトリスはとにかく、人懐っこいです。ほら、こんな風に……」
レイアが手招きしながら近付くと、数匹のコカトリスがむぎゅむぎゅとレイアを取り囲む。
ふもふもっ。
「あっ、それはコカトリス囲い……! できますね、レイア」
「なんだそれは……?」
「コカトリスを呼び寄せる動きをすることで、取り囲んでもらう技です」
「いや、手招きしてたぐらいだが」
「中々にコツがいるのです、これが……。草だんごがあれば、簡単なのですが。素手はそれなりの難易度なんです」
うんうん、と頷くステラ。
俺にはわからんが深いようだな……。
簡単そうに見えるんだけどなぁ。
「……こんな感じか?」
ちょいちょい。
見よう見まねで、レイアの手招きをやってみる。
「ぴよよっ!」
「ぴよー!」
どだだっ!
あぶれていたコカトリスがこっちに向かってくる。
「あっ」
残ったコカトリス達が俺達を取り囲んで、もふもふしてくる。
……やってしまった。
まぁ、もふもふされるだけなので害はないが……。
俺の隣に立っていたステラと、ステラが抱えるディアも巻き添えである。
しかしステラはご満悦だ。
「センスありますよ、エルト様!」
「……そ、そうか?」
「ふかふかぴよねー!」
もこもこ。
暖かくて、柔らかい……。
そういえば、四方をコカトリスに囲まれるのは初めてだ。
ディアと添い寝したり、コカトリス姉妹に抱きついたりはあったが……。
「……素晴らしい」
素直にそう言うしかない。
目の前にはコカトリス。隣にはステラとディア。横と後ろにもコカトリス。
要はおしくらまんじゅうみたいなものだが、苦しくはない。
むしろ……すごくいい。
天国にベッドがあったら、こんな感じかもしれない。
とまぁ、こんな感じでコカトリス達の了承は取れた。というか、本当にスキンシップ大好きなんだな……。
あと、コカトリス招きを習得した。
使うとコカトリスにむぎゅむぎゅされるから、使いどころは難しいけど。
ちなみにコカトリスから、報酬の希望はひとつあった。
「おふろがほしい、みたいぴよ」
「シャワーはあるが……ふむ、わかった」
湯船は俺の植物魔法で作れるが、水道関係は結構な出費になる。
だが、問題ないだろう。
コカトリスの魅力に抗える者など、存在しないのだ……。
◇
宿舎を出てレイアとは別れ、俺達は大樹の塔に向かった。
コカトリスに生ぴよ握手会をしてもらうなら、色々と村ぐるみにならなくちゃいけない。
テテトカやララトマにも周知しなくちゃな。
しかし改めて見ると、中々壮観である。
ドリアードと土風呂愛好家達が、たくさん塔の前に埋まっている。
「……土風呂もだいぶ、手狭だな」
「ドリアードが増えましたからね……。大樹の塔の中は良くても、周囲はかなりキツキツです」
「おきゃくさんもふえてるぴよ」
ここ最近は冒険者ギルドの設立に関して、商人が出入りしていた。
ナールに調達してもらった道具だな。
そんな人達も土風呂には興味や怖いもの見たさがあるのか、結構入ってもらえる。
なので、塔の前の土風呂はかなり混雑しているのだ。この辺も話し合わないとな……。
塔につくと、テテトカとララトマが出迎えてくれた。いまやドリアードも大所帯だけれど、うまくやれているみたいだ。
元々、のんびりした種族でもあるしな。集まってもマイペースにやっている。
「やーやー、エルト様、ようこそー」
「ようこそです!」
「悪いな、忙しいのに」
「お邪魔します……!」
「おじゃまするぴよー!」
ララトマもだいぶ馴染んできたな。
それになんとなく、色つやが良くなっている気がする。ララトマもレインボーフィッシュの鱗を食べたので、パワーアップもしてるし。
主に花の部分が……だけど。
ちなみに話し合いは順調に進んだ。
まぁ、今日は知っておいてもらうだけだからな。
「なるほど、お祭りですかー」
「ドリアードには、そういうのはあるのか?」
「ありますねぇ、草だんご祭り」
「テテトカねーちゃん、あのお祭りやってたの……!?」
「やってるよー、たまにだけど」
「すごーい……」
よくわからんが、すごいお祭りらしい。
興味があるな。
「それはどんな祭りなんだ?」
「草だんごをいっぱい作って、動けなくなるまで食べるんですー」
「お、おう……」
「えっ」
「ぴよっ!?」
ステラとディアも驚いてるな。
予想外というか、らしいというか。
日本にも食べまくるお祭りみたいのは、まれにあるはずだが……。
ひたすら白米を食べるとか。
ドリアードは草だんごを食べまくるわけだな。
「それは……ちなみにいつ頃やるんだ?」
「気が向いたらですー」
「…………」
だよな。
暦がないのに、決まった日でやっているわけがなかった。
食べたくなった時に好物を用意して、食べまくる。実に原始的だけど、これもあるべき姿のひとつかもしれない。
ふむ、その『気が向いたら』はコカトリス祭りと合わさることはあるんだろうか。
なるべくなら、ドリアード自身のお祭りもやりたいものだ。
一緒に暮らしているんだし。
聞いてみるか……。
「それじゃコカトリス祭りに合わせて、草だんご祭りもやるか? 準備があれば、人手は出すぞ」
正直、ドリアードの活躍は非常に大きい。
彼女達の風習があるのなら、出来る限り継承に力を貸したい。
「えーと、草だんごとあとは……あれです。忘れた」
「やってたんじゃなかったのか……?」
「太鼓です!」
「そう、太鼓。どんどこどん、どんちゃかどんちゃか」
「いいぴよね! あたしもききたいぴよ!」
「音楽ですか、確かにお祭りには欠かせませんね。まだその辺りは決めていませんでしたよね?」
「ああ、楽隊を呼ぼうかと思っていたが……。太鼓なら用意できるな。ぜひとも一緒にやろう」
「わーい!」
「ありがとです!」
「やるぴよー!」
というわけで、ドリアードの草だんご祭りも一緒にやることが決まったな。
準備は少し増えるが、大丈夫だろう。
しかし音楽か……意外だな。
そんな習慣があったのか。
のんびりゆったりとした感じだろうか?
コカトリス祭り準備度
10%
お読みいただき、ありがとうございます。